東京大学総合研究博物館動物部門所蔵の海綿標本 (1) 六放海綿綱
小川数也1) ・ 阿部 渉2) ・ 上島 励2, 3)
1)中井研究室 ・ 2)東京大学大学院 理学系研究科 ・ 3)別刷請求先
Manuscript nameと未記載種候補
今回の調査では、正式に記載されていない学名がラベルに表記されている例が複数認められた。これらはいずれも飯島が"未記載種"に対して準備したmanuscript nameと考えられる。以下に飯島のMS nameを列挙する。これらの内の3つのMS nameは準備はされたが使われず、該当する種は後に別の名前で正式に記載された。また、同じMS nameが複数の種に対して用意されていたと思われる例が2例ある。後に別の名前で正式に記載された場合を除くと、MS nameが付けられた標本は、未記載種の可能性がある。
Acanthascus tubus: UMUTZ-PorfH-559のラベル名で、未記載種の可能性がある。
Farrea awokii: UMUTZ-PorfH-199のラベル名で、未記載種の可能性がある。
Farrea clavata: UMUTZ-PorfH-652のラベル名で、未記載種の可能性がある。
Hyalonema claviferum: UMUTZ-PorfH-256のラベル名で、未記載種の可能性がある。
Hyalonema (Corynonema) clavigerum (Schulze, 1886) とは別の種と思われる。
Hexactinella polystomata: UMUTZ-PorfH-676, 677のラベル名で、未記載種の可能性がある。
Regadrella tubus: UMUTZ-PorfH-235のラベル名で、未記載種の可能性がある。
Rhabdocalyptus maximus: UMUTZ-PorfH-558のラベル名で、未記載種の可能性がある。
Rhabdocalyptus spinifer non Chaunoplectella spinifera Ijima, 1903: MS name for Staurocalyptus pleorhaphides Ijima, 1897. この名前はStaurocalyptus pleorhaphides Ijima, 1897に対して準備していた名前と思われる。上記pp. 5-6参照。
Staurocalyptus japonicus non Staurocalyptus japonicus in Ijima (1903): MS name for Staurocalyptus affinis Ijima, 1904. Ijima (1903)でStaurocalyptus japonicusとして図示されたのとは別の種(Staurocalyptus affinis Ijima, 1904)に対して、同じ名前をStaurocalyptus japonicusとして準備していたようである。上記p. 5参照。
Staurocalyptu crassifibratus: MS name for Staurocalyptus affinis Ijima, 1904. この名前もStaurocalyptus affinis Ijima, 1904に対する2個目のMS nameとして準備したらしいが、この名前も使われなかった。上記p. 5参照。
Staurocalyptus japonicus: Ijima (1903) で図示されたが、図と学名のみで記載文がないため、正式な記載とはみなされない。Staurocalyptus tubulosusと同様に後で正式な記載を行うつもりであったと思われるが、最終的には記載されなかったため、ここではMS nameとして扱う。標本番号から、Ijima (1904) でStaurocalyptus entacanthus ?とされたものと同じである。未記載種の可能性があるが、標本は紛失している。
上記の他に、Okada (1932) が 既知種とは異なるものとして区別した2種の標本が発見された。これらも未記載種の可能性があり、再検討が必要である。
Bathydorus sp. 1: UMUTZ-PorfH-98, Bathydorus sp. α in Okada, 1932
Bathydorus sp. 2: UMUTZ-PorfH-91, Bathydorus sp. β in Okada, 1932