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展示レビュー:東京大学教養学部美術博物館・総合研究博物館共催

「シーボルトと日本の植物」展

大場 秀章・清水 晶子


オランダの国立植物学博物館ライデン大学分館は国際的にも著名な植物学の研究センターであるが、シーボルトとその後継者が日本で採集した植物標本を収蔵することでも知られている。2000年の日本とオランダの修好400年記念事業の一環として、シーボルトらが日本で採集した植物標本が当博物館に寄贈されることになった(ウロボロス5巻2号[2000年]参照)。標本の寄贈は現在も継続されているが、すでに寄贈を受けた標本を広く公開することを主目的として教養学部美術博物館にて表記の展示を平成13年9月26日(水)から10月26日(金)まで開催した。

 長崎の出島のオランダ商館は、江戸時代の鎖国下にあって海外に開かれた唯一の窓として文化や科学技術の交流の役目を果した。日本の植物の科学的分析は、この商館付き医師として来日した学者たちによって着手された。なかでもケンペル(Engelbert Kaempfer)、ツュンベルク(Carl Peter Thunberg)、シーボルト(Philipp Franz von Siebold)は重要な貢献をした。

 シーボルトが商館付き医師として最初に来日したのは文政6〜12年(1823〜1829)で、日本滞在中に精力的に植物を収集し、植物についての情報を集めた。シーボルトの日本植物研究は、立場や時代の差もあり、前任者たちとはかなり異なるものであった。標本・資料の収集が組織的に行われ、オランダが国家として彼の活動を援助し、シーボルトの後継者の日本への派遣も行った。

 収集された標本の大部分はオランダ国立植物学博物館ライデン大学分館に保管されている。寄贈された標本はこのコレクションの一部である。これらの標本の植物学価値はいうまでもなく、シーボルト自身の手による収集品を数多く含み科学史・文化史的価値をも有している。

 展示では、ライデンから寄贈されたシーボルト関連標本54点を含む60点の標本を展覧に供した。150年以上も前に作製された日本の植物のおし葉標本を実物展示することで、歴史的標本の実際や保存状態を実見できるように努めた。また、シーボルトの絵師川原慶賀が描いた植物画(複製)、関連の植物学文献、シーボルトを描いた6点の肖像画なども展示し、シーボルトと彼の植物学への貢献を回顧できるよう工夫した。

 展示は学内はもとより、学外からの来館者も多かったと聞いている。また、期間中に駒場で日本植物学会大会が開催され、多くの植物学の専門研究者にも閲覧していただくことができた。

 なお、今回の展示に対して大学院総合文化研究科川口昭彦教授(前館長)ならびに義江彰夫教授、教養学部美術博物館担当の田辺美江専門員に多大な支援と助力をいただいたことを記しておく。

展示風景

 

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(大場秀章・本館教授/植物分類学、清水晶子・本館研究推進支援員/植物形態学)

  

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Ouroboros 第16号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成14年1月10日
編集人:西秋良宏/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館