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昨年夏の特別展示「加賀殿再訪」に引き続き、今回は「和田鉱物標本」展(「和田」展)の来館者調査を担当することとなった。前回の調査は来館者の行動を見る初めての調査で、具体的には、来館者が何をどれぐらいみて、どのように過ごしているのか、単独で約100人のデータを集めて分析し、併せて聞き取りと、アンケートによる調査を試みた。
今回は、展示企画者の田賀井篤平教授(当館博物資源開発研究系)が、教養課程の全学自由ゼミナールという学際的な授業を、博物館の評価と来館者調査という内容で担当しており、その受講者7名と調査チームを構成した*。評価というと善し悪しの判断を伴いがちだが、ここでの来館者調査の目的は来館者が博物館でどのような経験をしているのかを包括的に掘り起こすことであり、広い意味での「評価」ととらえている。本稿を執筆中の現在、調査は中盤に差し掛かったところなので、ここでは調査の一端を昨年の調査との比較を交えて紹介したい。
調査には以下の3つの手法を用いた。①来館者の展示場内での動線をトレースする方法——自分とは違うものの見方、予想もしない出来事に出会うので、展示や博物館自体を多角的にとらえ直す機会となる。②展示を見終わって館外にでてきた人に、展示を知った経緯や、来館しようと思いたった理由、印象に残った展示物・コーナーなどをインタビューする方法——依頼した9割を超える人が快く応じてくれた。③②の調査に基づいて、アンケートに適した項目を選び出し、加えて年齢や職業等のデータを取る方法——自由参加で全来館者の約1割が回答。もちろんプライバシーの問題があるので、個人を特定できるような形でのデータはとらない。
8月中のある一週間のアンケート73人分と開催初日から時々行っているインタビュー31人分を補完して大体の傾向を述べると、年齢別には、10歳未満が6%、10歳代が23%、20歳代が11%、30歳代が6%、40歳代が11%、50歳代が23%、60歳代が13%、70歳以上が8%であった。自由記述での職業等の欄には、回答を得た61人中、多い順に会社員(20%)、無職(16%)、小学生(14%)、中高生(13%)、大学生(11%)、主婦・家事(11%)、その他、教員、医師、公務員、自営業など(14%)となった。去年のデータは紙面の都合上割愛するが、今年は期間が夏休みにかかったこともあり、子供の数が6倍になった一方、変わらず多いのが勤め人である。昨年はたまたま近所に仕事で来た人や、近所に住んでいながら、開館5年目にして初めてその存在を知った来館者が多いことに驚かされたが、「和田」展では、展示替えの度に来るという人が今までになく目立った。特定の展示物への興味からだけでなく、博物館を定期的に利用する人もでてきているようである。今回は、企画側、調査側がともに予想していた以上に、連日多くの来館者があり、訪れた理由の7割が、もともと鉱物(石)への興味があったからというものであった。
魚卵状珪石:魚の卵のような形をした結晶の粒が幾千も積もって塊になっている | 展示場における来館者調査のようす |
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企画側は、来館者の動線をある程度想定しているが、昨年も今年もその順路通りに展示を見る人はほとんどいなかった。来館者は行ったり来たり、関心をもつ展示物も様々なので立ち止まる場所もそれぞれ異なる。今年の展示においては、鉱物が初めての人と前から興味がある人の2パターンを想定したが、そこに挙がっていなかった展示(魚卵状珪石)が最も人を集めていた。また、当館では入口と出口が一緒のため、奥まで行き着いたら戻る形になる。企画側は、帰り道では、ほとんどものを見ないと考えるが、来館者には、見落としたものが見えたり、同じ展示も違うように見えたり、もう一度見たいものがあったりと、展示体験は続いているようだった。
昨年も今年も、見学者用に椅子が置いてある中ほどの部屋に、「帰り」がけに寄るケースが多かった。一般的に博物館では、スペースがあったらものを並べたいところだが、ゆったりとものを見たり、頭を整理したり、感想を話し合ったりする所、安心して、自分を解放できる場所が重要な意味を持つことがうかがえた。今回の展示は自然光を巧みに利用したり、スペースが贅沢に使われていた。来館者がこれにどう反応したか分析してみようと思う。
* 本調査にあったっては、松山文彦(岩石・鉱床部門協力研究員)、三河内岳(研究担当)に全面的なご協力を頂きました。
(本館学外利用者)
Ouroboros 第15号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成13年10月19日
編集人:西秋良宏・佐々木猛智/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館