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第6回新規収蔵品展

「宝石と原石」

田賀井 篤平


写真1 カリナンIと名付けられた世界最大のカットダイアモンドで503.20カラット。1905年プレトリアで発見され、「アフリカの巨星」と呼ばれ、英王室の王笏を飾っている。
「玉磨かざれば光らず」とは、実語教にある言で、礼記の「玉磨かざれば器を成さず」によっていると思われる。玉(たま)とは、この場合は玉(ぎょく)であり、広辞苑によると彫琢して装飾するとある。中国では玉(ぎょく)は、軟玉であり瑪瑙であり、清の時代になって仲間入りしたヒスイである。これらの玉(ぎょく)は確かに磨かないと単なる石塊にすぎない。しかし、玉を一般の宝石と考えると、宝石の原石は、磨かなくても十分に美しいし、場合によっては磨かない方が美しい。

 鉱物が宝石として認められるには、3つの条件を満たしている必要がある。美しいこと、丈夫な(硬い)こと、そして珍しいことである。宝石の美しさは色であり、形は人工的なカットなどの細工を施しいる。それに比して、原石は、美しい色は共通であるが、形は鉱物が本来示すべき天然の造形である。

 鉱物の示す色は、古典的な発色の分類によると、「自色」、「他色」、「偽色」である。「自色」は、その物質を構成している主要な元素が原因となった発色である。例えば孔雀石(malachite)の化学組成はCu2(OH)2CO3,であり、特徴的な緑色は主要構成元素の銅イオンによる。また、「他色」は、その物質を構成している主要な元素ではなく、不純物として含まれている微量元素による発色である。例えば、コランダム(Al2O3)は無色透明であるが、クロムイオンを微量に含むと赤色を示す。「偽色」は、前2者と異なって光の干渉効果のような物理的な原因による発色である。例えば、オパール(SiO2+H2O)は、分子が規則正しく重なり合った層構造による光の干渉で発色する。自色や他色の発色機構は、多くの場合、光と鉱物を構成している元素の電子との相互作用で説明される。詳細は省くが、光が結晶に入射すると、光のエネルギーは電子(発色に係わる元素)のエネルギー状態を励起させる。その結果、特定の波長の光が吸収され、結晶は色が付いて見える。

 結晶の示す形態は、結晶を構成する原子が3次元的に規則正しく配列していることに由来しているが、面の発達の仕方は、結晶が生成する条件によって多様に変化する。しかし、どのような面がどのような条件で発達するかは、未だに解明されていない。結晶の形態の研究は「対称」の研究であり、エッシャーに代表されるように芸術にも多大な影響を与えている。

 今回、企画した「宝石と原石」では、鉱物の持つ色と形の多様性を感じ取って戴きたい。しかし、東京大学総合研究博物館には残念ながら宝石のコレクションは皆無であり、原石は鉱物標本として収蔵されている。公開するコレクションは、

宝石の原石:
いずれも宝石となるほどの品質を備えていない鉱物であるが、その鉱物自身の形の美しさや多様性を存分に味わうことができる。カットされ宝飾品のカテゴリーに入ってしまった鉱物では味わえない美しさを持っていると言ったら、宝飾品を持たない者の僻みに聞こえてしまうかもしれない。

世界の著名なダイアモンドのレプリカ:
これは、最近、総合研究博物館に収蔵されたものである。人文社会系研究科の大学院生である松田陽の調査によればドイツのDonaueschingenにある宝石業者のハンドメイドによるレプリカであるが、素材は水晶である。ダイアモンドのレプリカに水晶を使用することはあまり適当でない。その理由は、ダイアモンドの類い希な輝きは、大きな屈折率(2.42)と適度な分散(0.044)によっているからである。水晶のそれを見てみると屈折率は1.54、分散は0.013であり、ダイアモンドのレプリカ素材としては適当ではない。もし、私がレプリカを作成するとしたら、迷うことなく屈折率が2.18、分散が0.065の酸化ジルコニウム(キュービックジルコニア)を選ぶ。

写真2 ルビーの原石でインドのレディル産。左右の幅が8cmあり、大型の結晶であるが、残念ながら宝石になる品質ではない。 写真3 柘榴石の原石でオーストリアのエッツタール産。左右の幅が8cmで、斜方十二面体の結晶が点在する。宝石になる品質を備えていない。

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(本館教授/バイオ鉱物学)

 

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Ouroboros 第15号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成13年10月19日
編集人:西秋良宏・佐々木猛智/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館