図 ガリレオの描いた仮想動物の骨。 ガリレオは大きな動物を支えるには骨が相似形で大きくなるのでなく、寸法比を変えなければならないことを理解していた。しかしこの図はガリレオの思い違いで、大きいほうの骨が太すぎて描かれている。 (シュミットニールセン、K.1984『スケーリング:動物設計論−動物の大きさは何で決まるのか−』下澤楯夫監訳、大原昌夫宏・浦野知共訳、1995、コロナ社) |
骨は動物の身体を支える基本構造といえる。骨にもさまざまあるが、カニの甲羅のような外から支えるものを外骨格、哺乳類などの骨のように内側から支えるものを内骨格という。カメはその両方を備えた動物といえる。
哺乳類の骨にもさまざまなものがあるが、基本的には柱となる細長い骨と、頭蓋骨を構成するプレートのような面的な骨とに分けられる。
陸上哺乳類のうち、最大の種はゾウで体重が5トンもある。体重が重くなるとそれを支えるための骨も太くならなければならない。もし哺乳類の体型が相似形を保ったまま大きくなるとすると、骨も相似形を保ったままというわけにはゆかない。なぜなら体重は長さの3乗に比例するが、それを支える強度に対応する骨の断面積は長さの2乗に比例し、体重が重くなるにつれ負担が大きくなるからである。このことを解決するために大型の哺乳類ほど骨を太くしているらしい。
陸上の大型哺乳類であるゾウやサイの脚ががっちりしており、バイソン、スイギュウなどになるとやや細くなり、ガゼルやシカになるとスラリと細くなるのはこのような理由による。
実はこのことにずいぶん昔に気づいていた人がいた。かのガリレオ・ガリレイその人である。彼は上記のような理由から身体が大きくなるにつれて骨の寸法比が変化することを理解していた。さすがに天才はたいしたものだが、動物の大きさについての研究をしているシュミットニールセンはこの天才の計算ミスに気づいた。ガリレオは理屈通り小さい動物の骨を細く、大きい動物の骨を太く描いている。これを採寸すると、小さい動物の支持骨に比べて大きい動物のそれは長さが3倍になっている。したがって体重は3の3乗で27倍になるはずで、これを支える骨の断面積も27倍にならなければならない。すると直径は27の平方根で5.2倍となる。ところが実際に描かれた骨の直径は9倍になっている。これはガリレオが骨の太さを3の2乗の9としたからに違いなく、そうであれば断面積は9の2乗で81倍となる。いくらなんでもそんなには太くなる必要はない。実際、その図をみると確かに直観的にもありえないような不自然な太さではある。しかしこの小さなミスで天才ガリレオのすばらしさを差し引くのはフェアでないだろう。
写真 アジアゾウの大腿骨。キツネ、ウシなどの骨と比較すると長さ以上に太さが増加していることがわかる。 |
(本館助教授/動物生態学)
Ouroboros 第8号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成11年6月1日
編者:西秋良宏/発行者:川口昭彦/デザイン:坂村健