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非南極産隕石

田賀井 篤平


本研究博物館の鉱物部門では大学院理学系研究科鉱物学専攻と協力して非南極産隕石の収集を行っている。現在までに世界中で発見回収された隕石は2万1000を超え、年々増え続けているが、新たな発見の大部分は南極隕石である。南極以外で発見された隕石の総数は3000〜4000程度にすぎない。本部門では非南極産の隕石を約70種150個収集している。数としては少ないが、収集した隕石はいずれも太陽系物質進化研究の観点から精選された隕石試料ばかりである。

鉄隕石
ウィドマンシュテッテンと呼ばれる組織を示す鉄隕石
 
アエンデ隕石
炭素質コンドライトの代表的な試料であるアエンデ隕石(横幅5cm)
 
約46億年前に太陽は誕生した。以来、太陽系は物質進化を遂げ現在の姿に到った。その中で地球は誕生以後激しい変動を経験し、初期の情報を失ってしまい、地球試料から太陽系進化の後をたどることは困難である。それに対して、様々な進化段階を留めていると考えられる天体を母天体とする隕石は太陽系進化の情報を持っていると期待される。従って「太陽系はどのように進化したのか?」という疑問に答える事ができるのは隕石である。隕石は物質進化の観点から大きく2種類に分類される。1つは、隕石母天体上で溶融・分化を経験していないと考えられるコンドライト隕石であり、他は母天体上で溶融・分化を経ている非コンドライト隕石(エコンドライト・石鉄隕石・鉄隕石のグループ)である。コンドライトやエコンドライトには約46億年の生成年代を示すものが珍しくないことは、これらの隕石が、太陽系初期における物質の生成・分化の記録を留めていることを示している。太陽系の出発点は原始太陽系星雲であった。この高温の星雲ガスから様々な物質が凝縮・集積し隕石の母天体(コンドライトの母天体)となった。母天体上では様々な変成作用があったが分化作用はなかった。また、中には、かなり大きな天体にまで成長したものもあった。そのような母天体上では、様々な熱源によって集積した物質が溶融し、溶液の中から結晶化する過程で分化が起きた。表層では、地球の地殻に似た原始的地殻をもった隕石母天体もできた。惑星の特徴をもった原始的なエコンドライトの母天体である。これらの母天体上に隕石が衝突し、その衝撃で岩石片が母天体から放出され、軌道に乗って地球に落下したものが隕石である。火星と土星の間には、小惑星領域があるが、これらは、惑星になりそこなった原始惑星や微惑星の残りの物質であり、隕石の起源をこの小惑星に求める考えが一般的である。

コンドライトと呼ばれる隕石グループの特徴はコンドルールと呼ばれる球状の物質を含むことである。コンドライトの化学組成を調べてみると、太陽を取り巻く高温のガスから水素やヘリウム等の揮発性の元素を除いたものの化学組成によく似ていることから、コンドライトは始源的な未分化の隕石で、原始太陽系星雲の中で惑星が形成されていく初期の段階の情報を保持していると考えられている。中でも、炭素質コンドライトは揮発性成分に富み太陽系形成初期の情報を持つ最も始源的な隕石である。また普通コンドライトには炭素質コンドライトに含まれていた揮発性成分は含まれておらず、集積後に熱変成を受けたと考えられている。非コンドライトは、コンドルールを含まない石質隕石であるエコンドライト、石鉄隕石、鉄隕石のグループである。隕石母天体がある程度の大きさになると、様々な熱源(例えば放射性元素の壊変熱や隕石の衝突熱など)によって、物質は溶解し、結晶化に際して物質の分化が起こる。このような分化過程を通して原始的な地殻を持つような原始惑星が出来たと考えられる。HED隕石はエコンドライト母天体の原始地殻に由来すると考えられており、月や地球の地殻と関連が深い。最近では、HED隕石の母天体として小惑星のベスタが考えられている。SNC隕石はその岩石組織が火山岩的であることと生成年代が1.8億〜13億年前と他の隕石に比べて非常に若いことなどから火星起源の隕石であると考えられている。隕石中の希ガス組成が火星の大気の成分と類似していることも火星起源を支持している。最近南極から回収された隕石の中に生物の痕跡が発見されたと話題を呼んでいる隕石もこのグループに属している。石鉄隕石は、その名前のようにニッケルを含む金属鉄と珪酸塩鉱物が共存する隕石であり、物質分化の点から重要な隕石グループであるが、未知な点が多く残されている隕石である。鉄隕石は主に鉄とニッケルの合金からなっており、この鉱物は地球では発見されていない。隕石母天体上での物質分化の結果、鉄・ニッケルが集まったものと考えられる。

南極隕石の研究が進行するにつれて、例えば南極産隕石と非南極産隕石には落下年代におおきな違いがあり母天体の異なった場所に由来する可能性が高くなった等、両者には多くの点で相違があることが解ってきた。そこで南極産隕石と非南極産隕石を比較検討することが太陽系生成過程を研究する上で重要となってきた。非南極産隕石を入手し、その母天体の形成プロセスを南極産隕石と比較しつつ解明することが非南極産隕石の収集の目的である。

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(大学院理学系研究科助教授/本館鉱物部門研究担当)

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Ouroboros 第3号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成9年1月21日
編者:西秋良宏/発行者:林 良博/デザイン:坂村 健