| ||||||
コンソ調査地の一露頭。現地住民が見守る中、遺物の出土状況を記録 | ||||||
コンソの化石産出地はトゥルカナ湖に注ぐ有名なオモ川下流域(古生物・古人類学研究、民族学研究、野生動物研究、観光など)への街道沿いにある。従って、アクセスは簡単である。しかしながら、多くの人類学者が往来する中、1991年まで、化石・旧石器の産出地としては全く知られていなかった。私の長年の同僚であるエチオピアのブルハニ・アスファオ氏が率いる同国文化省の広域プロジェクト中(筆者は古生物学担当の海外協力者として参加)、初めてコンソの先史・古生物学的存在が世に知れたのである。規模はそう大きくないものの、質は東アフリカの化石産出地の中でも第一級のものであった。そして、1993年にはエチオピアと日本人研究者の混成チーム(エチオピア側代表者は先史学者のヨナス・ベィエネ氏)を結成し、以後毎年、夏に野外調査を実施している。
コンソ遺跡群は約140から190万年前の古人類サイトであり、我々の調査により、豊富な哺乳動物化石と共に若干数のホモ・エレクトスとボイセイ猿人化石が出土している。初期のホモ・エレクトスはトゥルカナでは約180万年前以後から知られており、猿人やホモ・ハビリスと比べ、体と脳が大きく、脚が長く現代的な体型をもち、顎や歯などそしゃく器の縮小が見られる。ボイセイ猿人はそしゃく器を極端に発達させた、特殊化した猿人である。約230万年前にエチオピクス猿人から進化し、140から100万年前の間に絶滅したらしい。コンソの前期更新世堆積層の上位層準からは豊富な初期アシュール型石器や切傷・打撃痕のある動物骨が伴出する。このため、コンソはアシュール型石器文化の起源と変遷、それと関連した初期原人の生業活動の有り方などを考察する絶好の調査地と言える。アシュール型石器文化とはハンドアックスなどの大型な両面加工打製石核石器の存在で特徴づけられる。また、アシュール型の両面加工石器は、前段階のオルドワン型石器と異なり、初めて一定の形に製作されるようになった石器である。想定される様々な用途のうち、使用実験によると、動物の解体に最も威力を発揮しただろうとされている。
コンソの調査地は約20キロ径の範囲にわたり、断続的に分布する20以上の1キロ径程度の前期更新世露頭からなる。調査地域の主要部の層序・年代・古地形の枠組みがようやく完成しつつあり、これに基づいた動物化石や先史遺物の解釈が今後期待される。動物化石については豊富なカバ化石を除いた同定可能な哺乳動物標本約7000点を採集したが、洗浄・修復・整理・記載・比較研究などは全て、エチオピア国立博物館にて行われるため、日本側研究者による標本研究の進行にはままならない面がある。その中で、16点の人類化石を含め、順次、整理・分析を進めているが、調査開始当時では予想しなかったおもしろさが浮上してきた。コンソは有名なトゥルカナと約200キロほどの近距離にあるため、当然、両調査地の同時代の動物相には強い類似が予想された。ところが、蓋を開けると、種の構成や相対頻度などで相当異なっていることが分かった。これは環境の違いや個々の堆積盆の隔離傾向などに起因すると考えられるが、こうした視点からも人類化石や先史遺物の解釈を進めたい。
(大学院理学系研究科助教授/本館人類先史部門主任)
Ouroboros 第3号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成9年1月21日
編者:西秋良宏/発行者:林 良博/デザイン:坂村 健