文化勲章受章
森先生には本年11月に文化勲章を受章されました。先生は昭和60年度より平成10年度まで本学総長を務められ、本館の学内における地位の向上など多くの面で多大な貢献を頂いております。先生はまたご専門の医学の分野でも本学医学部長をつとめられ、現在は日本医学界会長をお務めです。本館の展示の際はいつもご来館下さり、心温まる激励のことばを頂戴しております。今回のご受賞を本館一同心よりお慶び申し上げます。 |
しかし、最近の傾向を眺めると、私の個人的な印象としては、余りにも「流行」のほうに偏り過ぎでいるように感じられ、しかも少なくともその一部は不易に根差していない、まったく一時のもののようである。最先端の研究、それも直ぐ論文になるようなもの、成果を数量化して評価しうるようなもの、そして利便という物差しで測って直接役に立つようなもの、それらのみが社会から求められ、政官民ともにそれを善しとし、時には大学自身すら迎合する。
だがこれらの多くは「一時流行」の最たるもので、「不易」は日に日に影を潜めつつある。これははなはだ寂しい、いや、それどころか心配でさえある。「不易」こそ万古不滅、何時までもその価値を失わないが、他方、単なる「流行」については、それも大切には違いないがしばしば、今日の最先端は明日ともなればもはや最先端ではない。それどころか、簡単に忘れ去られてしまうことすらあると銘記すべきである。
私は大学の植物園とか博物館が好きである。殺伐とした病理解剖などを自らの業としてきた反動かもしれないが、何とはなしに、そこにこそ「不易」を形として眺めることができるように思われ、心が落ち着き、和むからである。博物館にある標本は概して旧い。しかし、風雪に耐えた一品一品であって、それぞれが何等かの意味で過去・現在・そして未来を通じて変わらぬ価値を有するものが並べられている。情報過多の時代に、良きも悪しきも、正しいものも間違っているものも、総て混然と与えられ、その選別に苦労する今日の生活に比べ、ここに並べられている品々はいずれもすでに精選され、真に値打ちあるものばかりである。
単なる「流行」のみでは優れた教育も研究もできない。同時にその根底にあるべき「不易」を大切にする必要がある。大学の価値も、品格も、それにどれ程「不易」と「流行」が良きバランスをもって存在するかにかかっていよう、とするのが私の意見である。