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小柴昌俊先生ノーベル賞受賞記念

「ニュートリノ」展を企画して

田賀井 篤平


写真1 ノーベル賞授賞式(2002年12月10日、ストックホルム コンサートホールにて)
写真2 大型光電子増倍管を手にする小柴先生
小柴先生のノーベル物理学賞受賞が報道されたのは10月8日でした。この報道から1週間後に、私はオランダ・ライデンでのシーボルト鉱物標本調査のために出張しましたが、ニュースを聞いた瞬間に総合研究博物館で記念展示をする必要があるな、と感じて大場秀章教授にそのむね申し上げて出かけました。ライデンにいるときは調査に追われて記念展示のことは全く考えていませんでしたが、2週間後に帰国してみると、記念展示の開催が決まっていたばかりか、展示担当が私になっていたので、思わず唸ってしまいました。

その理由の一つには、素粒子物理学というモノよりも概念の世界をどのように展示に持っていっていいか見当がつかなかったことと、1月16日の東京大学主催の小柴先生記念講演に会わせて開催するという時間的な問題でした。幸いに、昨年の10月に寄附研究部門として立ち上がった「ミュージアムテクノロジー」部門の洪恒夫客員助教授が展示デザインの専門家であるので、展示関係は洪さんにお願いする事ができました。

小柴先生が理学部のご出身であることや神岡の観測施設が宇宙線研究所の付属施設であることから、この記念すべき展示を大学院理学系研究科と宇宙線研究所研究所の共催とすることとしました。素粒子物理学に関して言えば、40年近く前に理学部で量子力学の講義を受けたのが唯一つの接点である私が、だれの手助けもなく展示をできるはずもありません。これも幸いに、宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設の鈴木洋一郎教授と大学院理学系研究科物理学専攻の蓑輪眞教授のお二人の全面的なご協力を得ることができました。今回の展示はお二人のお力添え無くしては不可能でありました。心から御礼を申し上げます。

 小柴先生もお忙しい中、展示のためにお願いしたインタビューを快くお引き受け下さいました。ちょっと内緒話ですが、先生にインタビューするときは、女性を伴って行くと話がスムーズに行くという天の声を聞いたために、インタビュー当日は博物館の誇る美女グループを伴って伺いました。そのせいだけではないと思いますが、先生は終始、懇切丁寧にユーモアを交えながら質問に答えてくださいました。基礎科学の大切さ、研究者として磨かなければいけない「勘」、実験の楽しさ、などなど、非常に示唆に富んだお話でした。素晴らしいお話でしたので、その様子を展示の中でご覧戴けるようにしました。

 展示図録に関しては、内容が内容だけに、博物館の通常の所謂「図録」にはなりません。そこで、どちらかというと「本」に近い形となってしまいました。この出版に関しましても、高エネルギー加速器研究機構の戸塚洋二先生や大学院理学研究科の駒宮幸男先生がお忙しい中にもかかわらず、ご執筆くださいました。改めて御礼申し上げます。

 展示を考えたときに、問題は最初に書きましたように、「素粒子」という実感できない概念の素材で展示ができるのかということです。「素粒子は物質を構成している最も基本的な粒子で‥」という定義をどのように展示に結びつけるか、荷の重い課題でした。しかし、大学における博物館の最も重要な使命の一つが、大学で行われている研究の成果を公開し社会に情報発信することであるとすれば、小柴先生のノーベル賞受賞の対象になった研究成果を展示を通じて公開することこそ、まさに大学博物館ならではの事業であると考えました。

 私の目に映った素粒子実験の印象は、最も小さい粒子を研究するのには巨大な実験装置が必要であるということです。その巨大な実験装置にも2種類あって、高エネルギー加速器研究機構、ドイツ電子シンクロトロン研究所、欧州素粒子物理学研究所などのように大型の加速器によって粒子を衝突させ、そこからの事象を観測する人工的な施設であるのと対照的に、神岡鉱山にあるカミオカンデ、スーパーカミオカンデでは、岩盤と清浄な水という自然素材を活かし、太陽や超新星という自然の事象から飛来する宇宙線を観測します。

 私達は顕微鏡を覗いて小さな物を観察します。それと同じように、宇宙からの極微小な素粒子の世界を巨大な光電子増倍管を配した巨大な虫眼鏡で覗くというコントラストの妙に感嘆してしまいます。本展示では、小柴先生の直接的な研究成果ばかりでなく、その中に科学者の抱く研究に対する感性と情熱、また巨大な装置を計画から完成に導く科学者と技術者のコラボレーションの様子をも伝えることができるように努めました。小柴先生が言われる「基礎科学の重要さ」とその魅力を感じ取って戴きたいと思います。

 この展示を行うに当たって、ご協力くださった東京大学名誉教授小柴昌俊先生、宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設の鈴木洋一郎教授、大学院理学系研究科の蓑輪眞教授、高エネルギー加速器研究機構の戸塚洋二教授や大学院理学研究科の駒宮幸男教授、神岡鉄道株式会社の小長井憲二さん、元神岡鉱業の小松弘さんに心から感謝申し上げます。展示設計を快く担当してくださった総合研究博物館洪恒夫客員助教授、展示設営を献身的に支えてくれた石田裕美さん、玉川万里子さん、橘由里香さん、その他の総合研究博物館のスタッフの方々に謝意を表します。

小柴昌俊先生ノーベル賞受賞記念
「ニュートリノ」展
主  催:東京大学総合研究博物館・大学院理学系研究科・宇宙線研究所
協  力:株式会社丹青社、株式会社日立製作所、株式会社理学電機、有限会社南雲デザイン、株式会社日本板硝子
開催期間:平成15年1月16日(木)〜6月20日(金)
会  場:東京大学総合研究博物館1階奥新館展示ホール
開館時間:午前10時〜午後5時(入館は4時30分まで)
休館日:1月16日〜4月20日は月曜休館、4月22日〜6月20日は土日祝休館。他に1月18、19日及び2月25、26日は臨時閉館。
入場料:無料

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(本館教授/バイオ鉱物学)

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Ouroboros 第20号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成15年2月14日
編集人:西秋良宏/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館