DIS技術とは
DIS(Digital Image System)は、「時間と空間を越えて美と感動を伝える」を基本コンセプトに、画像を中心としたディジタル処理技術と、処理したデータをマルチユースに展開するシステムの総称であり、日立製作所試作開発センタにおいて10年にわたり開発を進めてきた。
DISでは、コンテンツの入力・処理・保存・出力の各プロセスを一貫してディジタル処理することで、コンテンツの持つ情報が最大限、かつ様々に活用可能となる。そこで「国宝源氏物語絵巻」をはじめとする貴重な文化遺産のディジタルアーカイブプロジェクトにこれまで取り組んできた。「国宝源氏物語絵巻」においては、現存する絵巻を全て鑑賞可能とすることに加え、ディジタル修復およびディジタルレプリカの作成等をおこなった。「二条城二の丸御殿障壁画」においては、過去に失われてしまった障壁画を日本画家など研究者の協力のもとで推定復元した。
最近では長野県戸隠神社の天井に描かれていた河鍋暁斎の天井絵を復元するプロジェクトを進めている。この天井絵は昭和17年に火災のため焼失してしまったが、わずかに残された絵はがきなどをもとに、DIS技術と日本画家(東京芸大)のコラボレーションにより実物大のディジタルプリントとして甦らせた(図1)。これは素材とした絵はがきを約1000倍に拡大したもので、平成15年4月に神社の天井に実際に取り付けられ一般に公開される予定となっている。
このように日本各地に古くから伝わる文化遺産を修復・復元し、広く一般に公開することを通し、地域の活性化にも貢献できると考えている。
ミュージアムへの応用
国際美術館会議初代議長ジョルジュ=アンリ・リヴィエールは、ミュージアムについて「知識の増大、文化財の保護・自然財の保護と発展、教育、文化を目的として、自然界、人間界の代表的遺産の収集、保存、伝達、展示を行う社会的施設」と定義している。図2は、この概念を示したものであり、収集・保存、管理、伝達等の各機能が相互に関連し、ミュージアムを構成している。DISの東京大学総合研究博物館での活用事例を以下に紹介する。
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これらの学誌財を保存・研究・公開する包括的データベースとして学誌財グローバルベースを開発した。ここでは画像データ、書誌データに加え地図情報なども合わせデータベース化することにより、地図や年表などの直感的なインターフェースを用い、場所や年代を特定することにより関連情報を迅速に検索することができる。
・「伊能小図」のディジタル化
江戸時代後期に伊能小図を印刷する際に使われた版木が同研究博物館に所蔵されている。この版木には、亀裂および凸部の摩耗や損傷が存在する。このため、今となってはこれを使って再度伊能小図を印刷することはできない。
そこでディジタル処理技術により、版木に触れることなく彫り情報を抽出し、更に当時刷られた伊能小図から色情報を取り出し、これを合成し伊能小図を現代に甦らせた。
伊能小図のディジタルデータをもとに、版木では不可能な実物より大きなプリントの作成、あるいはディスプレイを用いた展示など、様々な応用が可能となる。
・「伝源頼朝像」のディジタル化
同博物館には、「伝源頼朝像」の模写作品が所蔵されおり、この作品のディジタルレプリカを作成することとした。ディジタルレプリカは、質感、色合いが忠実に再現されており、作品に残る大きな傷をも忠実に再現したもの、傷のみを修復したもの2点に加え、素材となった模写作品と合わせて同博物館で展示した。これらのディジタルレプリカは実物と並べて展示しても違いが判別できないほどのレベルで製作されており、精度の高いディジタルレプリカは、新たな作品展示手法となりうると考える(図3)。
今後の取り組み
これらのプロジェクトを通し、ミュージアムの抱える素材の保存・展示に関する大きな問題(膨大な量、大きな物、失われた物など)を解決する手段として、ディジタル技術の活用が有効であることがわかった。
今後、さらにネットワーク等を介し点在する作品を集結するなど、従来のミュージアムを一新するディジタルミュージアムの実現に向かって努力したいと考えている。
(本館客員教授/
(株)日立製作所試作開発センタ・センタ長)
Ouroboros 第20号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成15年2月14日
編集人:西秋良宏/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館