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東京大学総合研究博物館
隕石コレクション

田賀井 篤平


東京大学総合研究博物館に収蔵されている隕石は、非南極産隕石で、155種371点にのぼる。
隕石は太陽系における物質進化の過程を記録している最も重要な資料である。約46億年前に太陽が誕生し原始太陽系星雲が形成された。その星雲の中に固体粒子が析出し、凝集・分裂を繰り返すうちに、微惑星が形成される。その微惑星が衝突によって原始惑星となり、周囲の物質を集めて成長し惑星となって、分化過程を経て現在の太陽系が出来上がったと考えられる。月や火星を起源とする隕石を除くと、多くの隕石の母天体は、火星と木星の間に存在している小惑星であると考えられている。この小惑星は、いわば惑星になり損なった微惑星であり、太陽系の物質進化過程の様々な段階の記録そのものである。隕石には多くの種類があるが、その多くが45億年近傍の形成年代を示すことは、太陽が誕生して1〜2億年の間の、原始太陽系星雲から原始惑星への劇的な物質進化の過程が隕石の研究によって解明される可能性を持っていると言っても過言ではない。地球形成初期の情報は地球の活発な地殻活動や大洋・大気等による浸食・堆積・変成作用により殆ど失われていることから、隕石が惑星形成初期の歴史を記録に留めた唯一の試料であるといってもよい。
アポロ計画に端を発した惑星物質科学は、数多くの惑星探査機による惑星、衛星に関する膨大な観測データの集積と解析とともに、隕石、月試料、宇宙塵等の物質科学的研究よって発展しつつある。とくに隕石は、原始太陽系星雲ガスから現在の太陽系に至る惑星物質進化過程を記録している我々が手にし得る最も重要な試料である。日本には南極観測隊が収集した15000個に及ぶ隕石があり、この隕石試料は惑星物質科学の研究に国際的に供されている。従来の隕石研究では、大量に存在する南極隕石に関するものが大部分であり、非南極隕石についての研究も南極隕石と区別されることなく行われてきた。しかしながら、南極産隕石と非南極産隕石には落下年代に差があり、母天体の異なった場所に由来する可能性も高く、南極産隕石と非南極産隕石の比較研究が不可欠である。南極産隕石との対比において、隕石母天体の形成過程を解析することは、従来の南極隕石による原始惑星についての結果と異なる形成条件を与える可能性があり、さらに隕石母天体の多様性を検証することが可能となる。そこで、大学博物館に教育や研究のために非南極産隕石を系統的に収集することが、将来の惑星物質科学教育研究のために重要であると考えて、非南極産隕石の収集に努めている。

写真1 Gibeonの全体像 写真2 Cape Yorkの切断面
写真1 Gibeon(Namibia, 1836年発見、鉄隕石:25kg)の全体像 写真2 Cape York(Greenland, 1818年発見、鉄隕石:675g)の切断面、表面の模様はWidmansttten模様と呼ばれる。
写真3 Allende 写真4 Jilin
写真3 Allende(Mexico, 炭素質コンドライト:4kg)、1969年2月8日にメキシコ・アエンデ村に落下。多くの研究を生み出した特記すべき記念碑的な隕石。 写真4 Jilin(China, 1976年3月8日落下、H5コンドライト:1.4kg)、表面の波模様は隕石が大気圏に突入した時に表面が溶融した跡。

隕石は、その母天体の進化段階と構成鉱物によって2つ大別される。
物質が集積されたとき、溶融などによる分化が行われなかった進化過程を代表する隕石がコンドライト隕石であり、分化過程を経験した隕石が非コンドライト隕石である。コンドライト隕石は、さらに最も始源的な炭素質コンドライト、変成作用を受けた普通コンドライト、エンスタタイトコンドライトに分類される。非コンドライト隕石は、石質隕石であるエコンドライト隕石、石鉄隕石、鉄隕石に分類される。
博物館の隕石コレクションはこれらの隕石種を網羅しているばかりでなく、同じ隕石種の中でも特異な隕石などについても充実を図っている。
博物館における研究資料の整備は、主として採集によるが、隕石に関しては採集が非常に困難であり、購入という手段によらなければ整備が不可能である場合が多い。その理由として、
1)隕石が何時・何処に落下するか予測が不可能である。
2)落下が報じられた時点で、隕石の大部分が回収されてしまう。
3)最近に発見される隕石が、南米・オーストラリア・リビアなどの砂漠地帯が多く、探査が困難。
4)2度と同じ隕石は落下しないため、落下・発見した隕石はそれぞれがユニーク。
などが挙げられるであろう。
東京大学総合研究博物館では、資料部門の協力と購入・寄贈などを得て、155種371点の非南極産隕石を収蔵するが、この隕石コレクションは惑星物質進化の観点に立った系統的コレクションであり、国立極地研究所に収蔵されている15000もの南極隕石を除くと、国内では最も整備されたコレクションの一つと言える。この系統的収集は非南極産隕石としては、比較的整った収集であるが、今後も収集の努力を続け、大学博物館から、隕石学を中心として宇宙科学・天文学・環境科学・材料科学などの他分野へ新たな情報を発信していきたい。
コレクションの中でも展示のための大型標本としての隕石を挙げると、

Gibeon(鉄隕石):25kg
Dean Funes(H5コンドライト):4.2kg
GibeonEtter(H6コンドライト):25kg
GibeonAllende(炭素質コンドライト):4kg
Jilin(H5コンドライト): 1.4kg
Chico(L6コンドライト):1.2kg
Millbillillie(エコンドライト):200g
Caddo County(多くの石質を含む鉄隕石):500g

東京大学総合研究博物館では、1999年の夏休みの期間に、大学博物館としては初めて初等・中等教育への貢献を念頭においた展示(「ふしぎ隕石」展)を開催する。また1999年9月6日から9月10日まで、公開講座「隕石:太陽系の歴史の証人」を開催し、展示を利用した公開講座を初めて試みる。

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(本館教授/バイオ鉱物学)

  

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Ouroboros 第8号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成11年6月1日
編者:西秋良宏/発行者:川口昭彦/デザイン:坂村健