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新規収蔵の大類伸博士旧蔵
江戸時代城郭史学・兵学関連資料コレクション

西野 嘉章


城郭図集
城郭図集(拾八図)
山内氏図書記朱印
 
本年6月歴史学者大類伸(おおるいのぶる)博士(1884−1975年)の旧蔵になる、江戸時代の城郭史学・兵学に関する貴重史料25件他が、御子息の大類正久氏より総合研究博物館に寄託された。

大類伸博士は明治17年2月22日に東京市日本橋区浪花町24番地で伊藤辰之助とじゅんの二男として生まれた(実際の誕生地は、母の実家のあった旧神田末広町22番地)。父辰之助は伸の成長を見ることもなく、同年9月に亡くなっている。明治39年8月伸は大類久徴(きゅうちょう)の養子となり、神田末広町の大類家で養育される。伸は、神田練塀小学校から東京開成中学校、第一高等学校を経て、明治36年7月に東京帝国大学文科大学の史学科に入学。同研究科を経て明治39年9月大学院に進学。三上参次博士の指導の許で中世城郭に関する調査研究を行い、大正4年9月、東京帝大文科大学の副手時代に「封建時代における城郭の研究」で文学博士の学位を授与されている。翌月には臨時海軍々事調査会に加わり、翌年7月に帝大講師。大正9年4月からは海軍々令部編纂事務にも携わる。その後、帝大助教授を経て海外留学、大正13年11月、東北帝国大学法文学部西洋史研究室へ教授として赴任。昭和19年3月末に東京牛込の自宅から強制疎開を余儀なくされ、神奈川県藤沢市鵠沼へ転居。これを機に東北帝大の職を辞し、日本女子大学へ転勤することになった。その後、日本学士員会員に選出され、昭和50年に藤沢市鵠沼の自宅で死去。享年91歳。

御子息の大類正久氏によると、博士が歴史学を志したのは、一高在学当時に、晶平学出身で博学多識の伯父大類久徴から講話を受けたからではないかという。博士が目標としたのは、日本、東洋、西洋の地域区分を超えた総合的な文化史学の確立であり、ために手掛けた研究領域も城郭史や兵学に関する中世日本文化史からルネサンス美術史をはじめとする西洋中世・近世文化史まで、実に多岐にわたっている。

博士の研究の出発点は東京帝大の西洋史学科であった。卒業後、大学院では中世城郭の調査研究と精力的に取り組んでいる。幸い、明治40年以後に行った西日本の城郭研究については、調査旅行のメモも残されている。もちろん、当初からの狙いであった、東洋や西洋の城郭のことも念頭にあったようで、事実、学位論文の執筆に先だって刊行された『戦争と城塞』では、西洋に関する事柄も視野に収めている。しかし、研究の中心が日本の城郭であったことは言うまでもない。これら一連の調査研究を纏めた論文を東京帝国大学へ提出し、大正4年9月4日に31歳で文学博士の学位を授与されている。この学位論文は残念ながら行方が知れなくなっている——上野図書館に収蔵されていたものが関東大震災のさいに焼失してしまったようである。しかし、博士の遺品のなかに、それの草稿、古城址調査図67点、調査旅行スケッチ、史料抄録が残されており、そこには『封建時代文化史ノ一面トシテノ城郭ノ研究、特ニ本邦ノ城郭ニ関スル研究』との標題が付されている。ただし、この標題は最終的に改題されている可能性もあり、事実、昭和31年に刊行された「日本博士録」には『封建時代における城郭』の標題が見られる。

明治から大正にかけて全国の主要城郭には陸軍の師団本部が置かれており、陸軍傘下の「築城本部」がそれらの記録整備に当たっていた。しかし、『戦争と城郭』に注目したのは海軍であった。学位を得た日から数えて39日後、海軍から臨時嘱託の辞令が出され、海軍々令部編纂事務の職にあった大正10年3月から同12年4月にかけ、仏・独・伊3国への海外留学を命じられる。表向きは西洋史研究であったが、しかし、海軍より第一次世界大戦直後の西洋列強諸国の国情に関する調査も併せて命じられたようである。このヨーロッパ留学時代の記録は、「伊太利亜」(美術)に関するものしか残されておらず、仏・独両国に関するものは軍事機密として伏せられたものであろう。

留学から帰国して半年もせぬ間に関東大震災に被災。翌年の秋には東北帝大の西洋史学科に教授として赴任している。この間の事情については審らかでない。いずれにせよ西洋中世の文化史を興し、東北帝大に西洋史学の拠点を確立したことは間違いなく、昭和11年には鳥羽正雄とともに大著『日本城郭史』を雄山閣から出版し、日本における城郭史学の金字塔を打ち立てた。

大類博士旧蔵の書籍資料はすでに各地の研究機関に「大類文庫」として分蔵されている。その主なものは、東北大学中央図書館の洋書946冊、明治大学中央図書館の歴史理論関連洋書74冊と学会誌四点、日伊協会の美術史関連伊語書165冊、日本女子大中央図書館の史学関連図書113冊などである。

今般東京大学総合研究博物館に寄託されたものは、江戸時代の城郭史および兵学に関する古書・絵図総計25件他の貴重な史料である。これらの中には山鹿素行が野営陣形備立を描いた大図面『大座備の図』、紀井文庫旧蔵印のある五稜郭設計図『金湯要録』、藤原清連・大槻五郎輔の『綱領抜粋城築之巻』(安永2年)の写本(嘉永4年、山崎源太左エ門)、甘縄福国雄の『城制図解』、佐久間景忠の『菴敷之図』他の軍学関係絵図4種など、歴史的・文献史的にみて貴重な史料が多数含まれている。

本年度より新発足した総合研究博物館は、今回の新規収蔵品についてもそれらの画像データベース化を含め、特別展示その他を通して広く一般に公開して行きたいと考えている。

なお、本稿の作成にあたって大類正久氏より貴重な資料を御提供頂きました。ここに記して御礼申し上げます。

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(本館専任助教授/美術史・博物館学)

[寄託史料一覧]

1. 軍学史料城郭図関連資料25点
2. 史料抄録〔原本〕1点

3. 城郭スケッチ集〔帙入〕71点

4. 学位論文草稿

5. 調査ノート『西国城之旅』

6. 三上参次先生筆「日本城郭史」題辞

7. その他

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Ouroboros 創刊第1号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成8年9月9日
発行者:林 良博/デザイン:坂村 健