図1 気体比例計数管;初代のもの。今でもぴかぴかしています。 | |
初代測定装置 TYPE PNR054 | |
Manufacture Belge de Lampes et de Mat
riel Electronique Soc. An., Bergium | |
システム構成 | |
比例計数管 | :PNE051 |
容積 | 2.2l(実効容積1.0l) |
直径 | 109mm×515mm |
前置増幅器 | :PNB016 |
増幅器 | :PNB701A |
波高分析器 | :PNG013B |
計数表示器 | :PNC202 |
高圧電源 | :PNA201 |
電源 | :PNA001A |
他 |
回路はすべて真空管。デジタル表示も、当時は発光ダイオードはおろか、数字が光る表示管もなかったので、こんな真空管が使われていました(図2)。
機関研究が終わった後も、研究班が運営に当たることにして、1962年に「東京大学C14運営委員会」が発足しました(C14;今では14Cと書きますが当時はこのように表記していました)。研究班、委員会は7部局4研究所から構成されていました。
その後、1966年に「東京大学C14編年委員会」と名称を変え、翌1967年2月に評議会の議を経て正式に「東京大学放射性炭素年代測定装置委員会」が発足することになります。今も、この委員会のもと当館地下年代測定室で測定が行われています。
日本では、早くも1951年に、東京大学、理化学研究所、学習院大学の合同チームが科学研究員による研究を始めます。実際の測定は理化学研究所、次いで学習院大学が先鞭をつけます。学習院大学では、1955年アメリカから、Libby博士が使っていたもののそっくりさんを輸入します。これらの測定装置は、炭素の固体を計数管に塗りつけて測定するものでした。
図2 数字標示管;数字のうしろが光ります。 |
ともあれ、核実験降下物の影響を逃れるために、測定試料を気体にする方法が採られました。学習院大学では、1959年から年代測定値を産出することになります。東京大学での始動は翌年からでした。
初代 1960年度購入
二代目 1971年度更新
三代目 1980年度更新
四代目 1999年度更新
炭素14は、放射性炭素と呼ばれているように、5730年で半分の数になるように規則正しく壊れていきます(これを半減期といいます)。この時、β線を出しますが、その正体は電子です。飛び出してくる電子を検出すればよいのです。これらの装置では、資料の中の炭素からアセチレンガスを合成して、測定器に詰めます。円筒の中心に細い金属線が張ってあり、数千ボルトのプラスの電圧をかけておきます(センターカウンター)。炭素14原子が壊れてマイナスの電気を持つ電子が飛び出すと、金属線に引きつけられます。この時、途中のアセチレン分子に次々と衝突して、これまた電子を叩き出すことになります。この電子達もプラスの電気に引きつけられ、他の分子に衝突します。このようにして1つの電子がねずみ算式に増えて、中心電線に到着します(電子なだれ)。これを検出すればよいのです。
1)測定器を厚い鉄や鉛の壁で囲って、放射線を吸収してしまうのです。四代目は、厚さ25cmの鉄を着ています。約6トンの質量です。
2)これだけでは、透過力の強い宇宙線の一部を吸収することが出来ません。そこで、測定器の外周部分に20本以上の金属線を張ります(ガードカウンター)。外から来た宇宙線は、両方のカウンターに信号を与えます。これは偽物です。本物の炭素14の電子はエネルギーがそれほど大きくないので、センターカウンターだけが数えます。つまり、両方同時に数えたものは、偽物として除くわけです。これを反同時計数法と呼んでいます。この方法で、バックグラウンドは、1分間に1個以下になり、3〜4万年前までの資料を測定することが出来ます。
図3 初代年代測定装置;ベルギー、M.B.L.E社製 |
TK-1 4,970±80年BP(1966年9月10日)
横浜市南堀貝塚
(1955年発掘、代表和島誠一氏)
竪穴住居の炭化材 諸磯A式土器を伴う
この年代値を含めて、1966年9月から1967年7月までに測定した16資料についての年代値が、1968年に出版されています。 1968, “University of Tokyo Radiocarbon Measurement I”, Jun Sato, Tomoko Sato, and Hisashi Suzuki, Radiocarbon, 10, pp.144-148。
その後約30年の間に、1000件の年代値を決定してきました。その中で、最も引用回数が多い年代値は、おそらくこの2件でしょう。
TK-99 18,250±650年BP(1970年12月18日)
TK-142 16,600±300年BP(1974年12月11日)
沖縄県港川石灰岩採石場のフィッシャー、人骨が出土した粘土層に散在した木炭片
当博物館が所蔵する港川人骨については、後年筆者らがAMS法によって人骨を直接に年代測定しようと試みましたが、骨中にコラーゲンがほとんど残っていなかったために、まだ測定できていません。歯を使えば測定できる可能性があります。是非チャレンジしたいと思っています。
文学部 | 68 | ☆ | |
理学部 | 化学 | 4 | . |
人類 | 26 | ☆ | |
地質 | 77 | . | |
地理 | 311 | . | |
教養学部 | 宇宙地球科学 | 67 | . |
文化人類 | 186 | ☆ | |
地震研究所 | 48 | . | |
東洋文化研究所 | 45 | ☆ | |
生産技術研究所 | 11 | . | |
宇宙線研究所 | 6 | . | |
海洋研究所 | 151 | . | |
------------------------- | |||
合計 | 1000 | . | |
自然史系 | 675 | . | |
☆文化史系 | 325 | . |
3分の2が自然史系の資料ということになります。この傾向は、どうも一般的なもので、コマーシャルベースの測定ではもっと極端に差が広がるようです。
図4 計数管の原理;炭素14が壊れるときに放出するβ線(電子)をガス増幅して電気信号に変えます。 | 図5 四代目;小型化、コンピューター化していますが、原理は変わりません。図3に相当するのは、中央後方の部分。6トンの鉄しゃ閉の上に乗っています(中に計数管が鎮座しています)。左はアセチレンガスを計数管に出し入れする真空ライン。 |
AMS法では、微量の資料で測定できますが、そのために、注意しないと試料の局所的な影響を受けて、誤った情報を取り出してしまう恐れがあります。極論すれば、ちょっとでも炭素が含まれていれば、何らかの「年代値」が得られてしまうのです。
β線計数法は、AMS法の1000倍もの試料が必要になりますが、逆にそのため試料全体の平均的な値を得ることが出来ます。炭素14年代値から暦年代へ較正するためのデータが、すべてこの方法によって得られていることからわかるように、その信頼性は極めて高いものがあります。
四代目では、必要な試料の量を10分の1以下に減らす、新しい測定器の導入を試みています。今後とも、二つの方法の、それぞれの特色を生かした測定がすすめられ、共存していくものと考えています。
Ouroboros 第10号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成12年2月29日
編者:西秋良宏/発行者:川口昭彦/編集:東京大学総合研究博物館