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「フィールドワークの愉しみ」を企画して

高槻 成紀


今年度の秋季公開講座は「フィールドワークの愉しみ」というテーマとしました。趣旨は以下のようなものでした。
『博物館には動物、植物、人類、岩石、鉱物といった自然界のさまざまな標本だけでなく、土器、石器、彫刻、絵画、写真資料など人間による生活道具や芸術品にいたるさまざまな資料が収蔵されています。これら収蔵品は整理され、比較検討したり分析されたりしますが、それは博物館に「入った後」の作業で、実は「入る前」、つまり収集の段階にもさまざまな過程があります。そこで今回の公開講座では、普段あまり注目されない、この収集を含むフィールドワークにおける苦労話や愉しみについて6人の先生からお話をうかがう予定です。』

 このような趣旨に沿って、なるべく多様な人にお話いただくのがよいと考えて講師陣を考えました。結果的にはやや自然科学系の人に偏ってしまったかもしれませんが、それでも建築(藤森照信)、動物(丸橋珠樹、佐々木猛智、高槻成紀)、植物(秋山忍)、人類(諏訪元)、それに女性講師(秋山)も交えた多彩な顔ぶれになったように思います。
講座には53名の応募があり、最後に受講者から感想を寄せていただきました。それを読むと、多くの方からとてもおもしろかったという声が聞かれました。研究の成果そのものもさることながら、野外調査をしながら研究者がどんなことを感じているのか、あるいはもっと素朴に、研究者が何を飲み食いしているのかを含めて、フィールドで生活を聞くことができたことがとてもよかったようです。受講者にはいずれの講師も個性的に映ったようですが、とくに藤森先生のユーモア溢れる講義、丸橋先生のジェスチャーや声を交えたサルの説明、紅一点の秋山先生のヒマラヤの植物に対する情熱溢れるお話は感動を与えたようです。

 そして意外に、そして不思議にさえ思うのは、これだけメディアが発達し、情報が溢れる現代でも、やはり人々の心を打つのはホンモノであり、「ナマ」のもつ力は大きいということです。本当に体験した人でなければ語れないこと、同じ景色や標本を見ても見る人が違えば違って見えること、フィールドワーカーは研究のために調査をしているが、つねに楽しみ、ときに余計とも思えることを感じていること、そういうことが伝わったように思います。そうであれば私の企画は成功だったといってよいように思います。

 しかしいっぽうで、時間の長さ、休憩のとりかた、器具の使い方など、講義の実際上のことでは反省点も多くあることがわかりました。これらの点は参考にさせてもらいながら改善してゆきたいと思います。
(本館助教授/動物生態学)

 

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(本館助教授/動物生態学)

  

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Ouroboros 第13号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成13年2月5日
編集人:西秋良宏/発行人:川口昭彦/発行所:東京大学総合研究博物館