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総合研究博物館滞在記

三河内 彰子


東京大学総合博物館の去年の夏の展示は、小学生のための隕石展であった。その時、展示のアイディアを人を介して求められ、それが今回の私の滞在のきっかけとなった。私は現在、コロンビア大学の「人類学と教育」プログラムの博士課程2年に在籍し、自然と科学を学ぶ場としての博物館の役割をテーマに研究している。

博物館では、幅広い層の来観者、博物館を運営する組織、そして博物館で働く科学者たちの文化とが重なり合った世界をつくっており、教育、社会、科学の関係をとらえるのには大変興味深い場所だ。特に今回の滞在では、「展示」を通して学問の府である大学博物館の特徴を探ってみようと思い、この夏10週間、学外利用者として滞在させて頂いた。

展示は何を語りかけるのか?

現在、博物館で見られる展示は「骨」である。骨といったときに、どんなイメージを持つだろう? 恐ろしそうな骸骨? 身近なところで、昼食のフライドチキンの食べかすとなった骨?‥‥また、その骨を展示する機会があったら、どんなふうに展示するだろうか?

今回の「骨」展は前回の「骨」展のバージョン2で、前回がモノを支えるという骨格の特徴をとりあげ、人の内骨格や細胞の骨格、また建築で言う骨組みまで並べたのに対して、今回は、骨は分類学的、生態学的に分類され、様々な動物の骨を通して生き物の多様性に迫る生物学的色彩が強い。実は、滞在の前半に開かれていた「加賀殿再訪」でも「骨」が展示されていたが、その目的はまた違っていた。

「加賀」展は東京大学の敷地からの発掘品を中心としていたが、いわゆる「考古学的」に出土品を年代順に展示するものではなかった。敷地が旧加賀藩邸であったことを題材にし、題名通り、加賀藩邸、ひいては江戸の生活を再現し再考する展示であった。発掘作業では、出てきたものは何でも収集するので、当時の様子を理解するためには大学の内外を問わず様々な分野の研究者との既存の枠を越えた共同作業が必要となる。

そこでは「骨」は綿の敷かれた標本ケースに行儀よく並べられながらも、下級藩士の詰め所または御殿で食べられていたものとして展示され、両者の食生活の違いやそれを支える流通を伝えようとしていた。このように展示が違えば同じ「骨」が,違った切り口で展示されていたのが大変興味深かった。

展示の裏側で

これだけ多様な展示を次々とどのようにして生み出しているのだろうか?展示は建物と標本さえあればできるものではない。例えば、この博物館では、週に一回、教員と数人の事務が集まって博物館にかかわる様々な事項を話し合っている。文科系、理科系双方のスタッフがこれほど頻繁に顔を合わせることは、大学の中では珍しいようだ。細分化が進んだ異分野から来るため、モノに対する価値観や使う表現が互いに違うことも珍しくない。

しかし、スタッフは様々な経験をもち、苦労を乗り越えて、互いが異なることに柔軟に対応しようとしているように感じた(ちなみに私の通う米国の自然誌博物館でも横のつながりは求められはじめたところだ)。

しかし問題は、資料の運搬や整理、また保管の手が足りないことだ。この点、欧米の博物館では、キュレーターや研修を受けたボランティアの数は相当なもので、また、館内の歴史、標本、研究に精通した司書もいて研究者からアマチュアまで、幅広く応対している。さらににこの博物館では、毎回立派な研究・展示がなされているのに、それを保管、もしくは展示するスペースがないため、会期終了後はたたんでしまう。これは大変もったいないと思う。

しかしそのことが一方で次の全く新たなテーマでの展示を可能にもしているのかもしれない。スタッフ不足にもかかわらず、これら一連の作業を行うエネルギーには驚嘆させられる。なお、「加賀」展では来観者の館内での動向の調査を依頼された。これは欧米では盛んに行われており、積極的に博物館の発展に生かされているが、日本ではそれほどでもないようだ。

ここでも今後継続して行いたいと思っている。短期間ながら大学博物館としての特徴を具体的に垣間見ることができた。博物館そのものを研究する者の受け入れは初めてだったそうだが、滞在は楽しく、皆様に深く感謝したい。そして今後とも機会があれば更に研究させて頂きたいと願っている。

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(本館学外利用者)

    

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Ouroboros 第12号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成12年10月1日
編者:高槻成紀/発行者:川口昭彦/デザイン:坂村健