今回の調査の主な目的は、「モースが大森貝塚以外に発掘・収集した標本を同定する」ことであった。代表的な遺跡として小石川植物園内貝塚や大野貝塚が知られていたが、調査前の時点で、モース関連と特定されている標本はほとんどない状況であった。
根拠となる資料として、アメリカのPeabody Essex Museum(以下PEM)に、関連する遺物図が多数所蔵されていることが明らかになった。また、大森・陸平標本と同様、1884(明治17)年に出版された東京大学理学部博物場の展示品目録に一致する番号が、標本に注記されていることが確認された(いずれも詳細は後述)。
これらの情報を手掛かりに調査を進めたところ、出土地が不明確な資料が混在していた棚・平箱から、多数の標本が特定されるに至った。また、調査の過程で大森・陸平貝塚の標本も追加で確認されるなどの成果があった。
上記作業の結果を受けて、全312点を本書で報告することとなった。これらは以下のように区分され、点数内訳は表1に示すとおりである。
報告にあたって、大森と陸平は前回報告の標本番号を活かす形で、それぞれ「BD04番号」および「BQ04番号」を付すこととした。「BD」「BQ」は人類先史部門において使用されている大森・陸平の「遺跡番号」で、それらに整理年度「04」(2004年度)を組み合わせたものである。なお、「遺跡番号」とは、1980年代に赤澤威によってデータベースの電算化が進められた際に、所蔵資料の出土遺跡にアルファベット2文字を割り当てたものである(赤澤1982)。
第67集および第79集の報告の際には、土器標本について「BD04番号」「BQ04番号」を付して報告したが、土器以外の標本(土偶・土製品・石器・骨角器・獣骨・人骨・貝など)にはこれらの番号を付していなかった。今回新たに多数の獣骨が確認され、個々の標本の区別に有用なことから、大森にはBD04-1001~、陸平にはBQ04-301~番号を新たに付け直すこととし、一覧リストを45~53ページに再掲した。
Bの標本については、それぞれの遺跡番号に、標本番号を付与した年度(2014年度)の「14」を加えた番号で報告することとした。原則として、すでに登録されていたアルファベット2文字の遺跡番号を用いたが、未登録だった地名については3文字の遺跡番号を新たに設定した(表1-B参照)。また、博物場の展示品目録に具体的な出土地名が記されていない標本(「日本」「山形県」「鹿児島」「大和」「美濃」「伊賀」)については、遺跡番号「UK」(Unknown)を使用した。ただし、一部標本は文献調査などによって出土遺跡が推定されたものもある。
大森・陸平の追加標本については、前回報告で整理した棚・平箱に、それぞれ追加で収蔵することとした。そのほかの遺跡については「モース関連標本」として、新たに棚・平箱に集約した。最新の収蔵位置は各標本データシートに記載している。