博物場古物学標本の調査・整理作業(2017年-2019年)

(1)調査対象とした標本

東京大学理学部博物場の古物学関連標本については、これまでに標本資料報告第67号(陸平貝塚)、79・84号(大森貝塚)、116号(モース関連標本)においても調査結果を報告してきた。特に116号では、博物場の関連年表および古写真・図面等を掲載しているので、詳細はそちらを参照されたい。これまでに主な調査対象としてきたのは、古物学標本目録(注1)のNo.1~184(合計1127点)である。これらは、モースが調査した大森貝塚などの日本先史時代標本と、佐々木忠次郎(忠二郎)・飯島魁が調査した陸平貝塚の資料を中心とする。モースが東京大学での任を終えて帰国し、佐々木らが陸平を調査した1879(明治12)年秋までにその大部分が収集され、「生物学見本陳列室」に展示されたと考えられる。陳列室は翌年に博物場と改称され、1884(明治17)年に目録が印刷された段階で、標本はNo.788まで、合計3365点に増加している。博物場は翌年閉場となっているため、最終的な標本点数に近いと考えられる。なお、目録の構成と標本群の形成過程については、本稿の最後で改めて考察を加える。

今回は目録No.185以降を調査対象としたが、そのうちNo.287~296とNo.711~786の合計105点はアイヌ関連資料であり、1975年に理学部人類学教室から国立民族学博物館に移管された民族資料の中に含まれている(注2)。よって、これらのアイヌ関連資料を除く土器・瓦・石器・骨等の標本を対象に、同定作業および来歴調査を実施した。


注1)Catalogue of Archaeological Specimens with Some of Recent Origin. Scientific Museum, Department of Science, University of Tokio, (1884)。なお、『東京大学年報』では「古器物学」「古造物学」の語も用いられているが、ここでは「古物学」を用いる。

注2)国立民族学博物館の『民博通信』No.150によると、30件あまりのアイヌ標本について、朱記された番号と目録の名称が一致しているという(齋藤2015)。


(2)過去に行われた同定作業

博物場標本の同定作業は過去にも行われており、今回もそれらの成果の一部を援用している。

1938(昭和13)年、東大理学部に着任した長谷部言人は、人類学教室の標本を「再発掘」と称して整理し、博物場目録に掲載された標本が存在することを報告している。長谷部は「人類学標品目録が七八九号から始まっているのは、旧博物場の古物標品が人類学室に引継がれたからである」(長谷部1939, pp.240¬-241)としている。ただし、昭和初期までに付けられたとされる8480番までの人類学教室原番号は、博物場番号とは連続していないことが確認されている。

また、長谷部が整理している標本のなかにモース収集の陶磁器があることを知った小山富士夫は、朱書きされた番号が博物場目録と一致することを手掛かりに、標本同定を行った(小山1939)。同定された陶磁器はすべて人類先史部門に現存している。

1960年代には、A番号と呼ばれる標本番号が一部の標本に付され、対応するA1~A3700番台までのカードが作成された。その際に、博物場番号とA番号を照合した手書きのノートが人類先史部門に残されている。佐原真によると、このノートは山内清男が博物場収蔵品を復原するために作成したもので(佐原1988, p.862)、1977年には佐原自身が内容の再確認と追記を行っている。A番号は海外の標本から付け始められているため、ノートでは博物場の海外標本(No.306~482)を中心に照合が行われている。

(3)調査の成果と収蔵状況の更新

古物学標本目録の全内容と、これまでに確認された点数を入力した一覧を41~62ページに掲載した。その内容を集約したものが表1である。

過去の調査からも明らかになっていたように、博物場標本には目録と対応する番号が赤字で注記されており、今回も目録と番号注記の対応関係を確認しながら調査を進めた。その結果、新たに1206点の標本が確認され、すでに報告した大森・陸平ほかの標本557点と合わせると合計1763点となった。目録に掲載された3365点(アイヌ関連資料を除くと3260点)のうち半数以上を確認できたことになる。なお、一部の標本では目録点数より確認点数が上回るものがあるが(主に海外の標本、詳細は後述)、そのまま加算している。

これらの標本は、従来は様々な位置の棚や平箱に収蔵されていたが、博物場標本の学史的重要性に鑑み、まとまった棚・平箱に集約して収蔵する形に更新した。また、永続的な保管に資するため、標本の写真を撮影して図版1~54に掲載するとともに、保管用カードを作成して、標本とセットで収納した。ただし、点数が膨大なため、過去の調査ですでに博物場標本として把握・保管されてきた標本(陶磁器および海外標本の大部分)については、今回は撮影していない。

なお、今回確認した標本のうち以下の9点は、標本資料報告116号で対象としたNo.184までの標本である。そのときの整理作業方針に沿って個別の報告番号を追加で付し、写真は図版1・2に掲載した。

・目録No.84(函館の土器6点)= 報告番号ZK14-34~39

・目録No.128・140(日本の土器2点)= 報告番号UK14-8, 9

・目録No.179(小石川植物園内貝塚の石器1点)= 報告番号RS14-102

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