はじめに

本書は『東京大学総合研究博物館所蔵江上波夫教授旧蔵資料目録 第1部:内蒙古』(2011)に次ぐ第2部である。2003年から2007年にかけて寄贈された故江上波夫本学名誉教授(1906-2002)旧蔵コレクションのうち、第1部に掲載されなかった標本を掲載する。寄贈品は考古・民族系の学術標本を中心に、蔵書、音楽レコードなども含んでいた。前編、および本書によって、蔵書、音楽レコード以外のほぼ全ての資料がカタログ化されたことになる。

江上教授の経歴、学問の特徴などは第1部で述べたので、詳しくは繰り返さない。一言で言えば、ユーラシア各地で実に70年ほども実地調査を続けた活発なフィールドワーカーであり、それをとおして考古学、歴史学、美術史学、民族学など多方面に大きな貢献をなした人文科学の泰斗であった。そして、世界各地で膨大な量の考古・民族系標本を集めた無類のコレクターでもあった。

江上教授の収集品は生前からいくつもの博物館に分蔵されていたし、没後も、残されていたコレクションがさらに複数の機関に寄贈されることとなった。総合研究博物館に寄贈されたのは、教授が最後まで、手元にとどめおいていたコレクションの一部である。そのうち内蒙古の野外調査で収集した学術標本を第1部で報告した。本書で報告するのは、江上教授の私蔵品、愛蔵品ということになる。

各種のフィールドワーク、出張などの際に遺跡、史跡で収集されたものや、骨董マーケットでの購入品、さらには諸外国の要人との交流の中で得られた記念品など、さまざまな経緯で収集された多様な内容をもつ一群である。考古民族資料が多いために本書副題をそうしたが、特定の種類の標本に偏ったところはない。知的関心が一所にとどまらなかった江上教授らしいコレクションと言いうる。

貴重なコレクションを寄贈くださったご遺族、江上幸子、江上綏両氏には改めて、あつく御礼申し上げる。特に、江上綏氏には、標本整理にあたって幾度も、ご教示いただく機会があった。また、松谷敏雄本学名誉教授には標本の入手経緯調査に全面的にご協力いただいた。掲載図版(Plates 1–93)は上野則宏氏撮影によるものである。

入手経緯の記録が付されていた標本はごくわずかであった。世界各地で集められた出所不明の考古歴史美術標本を鑑定することは容易ではない。とうてい筆者等のみの手に負える仕事ではなく、本カタログ作成にあたっては、実に多くの方々に専門的知識を提供していただいた。困難な依頼に快く応じてくださった諸氏のお名前を以下、記し、深くお礼申し上げたい(五十音順、所属は当時)。

有松唯(広島大学)、石井龍太(総合研究博物館)、石川岳彦(国立歴史民俗博物館)、板倉聖哲(本学東洋文化研究所)、市元塁(九州国立博物館)、今村啓爾(本学人文社会系研究科)、 岩井俊平(龍谷大学)、臼杵勲(札幌学院大学)、岡野智彦(財団法人中近東文化センター)、小沼孝博(学習院大学)、金沢陽(財団法人出光美術館)、木内智康(本学人文社会系研究科)、木村博通(財団法人古代オリエント博物館)、久米正吾(国士舘大学)、肥塚隆(大阪大学)、小西正捷(立教大学)、佐々木猛智(総合研究博物館)、佐藤志乃(財団法人横山大観記念館)、下釜和也(財団法人古代オリエント博物館)、庄田慎矢(奈良文化財研究所)、末崎真澄(財団法人馬事文化財団馬の博物館)、須藤寛史(岡山市立オリエント美術館)、高瀬克範(北海道大学)、高槻成紀(総合研究博物館)、高濱秀(金沢大学)、田中公明(財団法人東方文化研究会)、田畑幸嗣(上智大学アジア文化研究所)、俵正市(財団法人俵美術館)、津村眞輝子(財団法人古代オリエント博物館)、鶴見英成(総合研究博物館)、新田栄治(鹿児島大学)、長谷川敦章(筑波大学)、畠山禎(財団法人横浜市ふるさと歴史財団横浜ユーラシア文化館)、桝屋友子(本学東洋文化研究所)、宮下佐江子(財団法人古代オリエント博物館)、山形眞理子(早稲田大学)、山田重郎(筑波大学)、山花京子(東海大学)、南有美(三星美術館Leeum)、Dendao Silpanon (National Museum, Thailand)。

このリストの長さが、そのまま、江上教授の関心の広さを反映している。

ただし、これほどまで多くの専門家にお声がけしつつも、十分な鑑定が出来かねた標本も少なくない。それは、すべて、編者等の責任である。

本書作成にあたっては平成23-24年度総合研究博物館プロジェクト経費を使用した。


 東京大学総合研究博物館
西秋良宏

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