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川口四郎博士コレクション展

「農園をもつ二枚貝類」

佐々木 猛智


1. ヒレシャコガイ Tridacna squamosa(シャコガイ科) 2. カワラガイFragum unedo (ザルガイ科) 3. リュウキュウアオイ Corculum cardissa(ザルガイ科)
岡山大学名誉教授・川口四郎博士(東京大学理学部動物学科1930年ご卒業)が長年のご研究の過程で収集された二枚貝標本が本館に寄贈されました。川口四郎博士は、二枚貝類と共生藻の共生関係を解明されたことで特に有名です。

 生物には他の生物と常に生態的・生理的な関係を持つものがあり、そのような生活様式は共生と呼ばれます。貝類にも様々な形態の共生関係を持つものがあり、その一つに微小な共生藻(褐虫藻zooxanthella)を体内に取り込むものがあります。それらの貝類は共生藻が光合成によって作り出すエネルギーを利用しており、あたかも体内に藻類の農地を持っているかのようです。その様子を川口博士は「農園をもつ貝類」と表現されました。

 共生藻をもつ貝類は種類が限られており、二枚貝類ではシャコガイ科Tridacnidae(図1)とザルガイ科Cardiidaeの一部(図2、3)のみに見られます。共生藻が光合成を行うためには十分な光が必要であり、そのため熱帯のサンゴ礁域に棲息する種に限られます。高緯度海域や深海には同様の共生関係をもつものは知られていません。

 他種の生物を体内に共生させる場合、その種がいつ、どのような経路で取り込まれるかという点が興味深い研究課題になります。例えば、細菌を共生させる貝類の場合、親の卵巣を通じて受精卵の段階から細菌を持つものと、発生が進んだ後に体外から取り込まれるものが知られています。

 川口博士は、共生藻を持つ貝類の場合には、発生初期には共生藻が体内に存在しておらず、後に外界から取り込まれることを発見されました。その時期はヒメシャコガイでは受精後約10日です。共生藻が含まれる部分は外套膜とよばれる膜の縁辺部に集中しており、殻が厚く共生部を殻外に露出させる種と、殻が薄く共生部が殻内に収められたままの種があります。いずれの場合も、貝は共生部を上に向けて棲息しており、共生藻に最も効率よく光が当たるように棲息姿勢を工夫しています。

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(本館助手/動物分類学・古生物学)

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Ouroboros 第21号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成15年7月15日
編集人:高槻成紀/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館