人骨標本の再整理作業に携わったのは、水嶋崇一郎、久保大輔、松川慎也、桑村和行、佐宗亜衣子、斎藤拓弥であった。個体分け、部位同定、基礎情報などの確度と水準を維持するために、全標本について、当初整理担当者の作業結果を水嶋または久保が確認・変更する方式をとった。さらに、必要に応じ、諏訪が最終確認を行なった。
熟練者においても同定が簡単ではない部位、例えば保存状態が不十分な場合や肋骨、指骨、主要歯種内での歯の位置については、同定した場合もそれを記さない方針をとった。また、椎骨の同定はおおよそ1椎骨ほどの誤差を含むものと見なしている。
長年の研究利用の間、接合部が外れたり、新たな破損が生じた標本が多数ある。これらについては、十分な強度の四肢骨については再接合することとしたが、頭蓋骨の破損は敢えて修復せず放置した。頭蓋標本の破損はその進行が目立っており、管理・運営・利用システムの今後の再考が課題として残されている。
標本の基礎情報のデータベース化にあたっては、経験や解釈による意見の相違がなるべく入らない、系統だった方式を採用した。
性別判定は、対象を寛骨に限定し、恥骨もしくは大坐骨切痕が保存されている場合にだけ行なった。頭蓋骨などから得られる性別情報は無視し、記録しないこととした。年齢情報は特定の文献基準に従うことで統一を図った。また、部位同定の詳細には依存しない方式をとった。例えば大臼歯内の歯種決定は、遊離歯などでは熟練者でも不可能な場合がある。したがって、歯牙年齢判定においては6歳以上を区別しない集計方式をとった。歯牙年齢が6歳以上の場合、より適切な年齢情報は、四肢骨が存在する場合は骨年齢情報によって得られる。あるいは整理備考の中に集計した、乳歯および永久歯の主要歯種ごとの保存数が役立つこともある。
現在特定できている人類先史部門所蔵の未発表の文書および写真記録を、人骨出土遺跡ごとのファイルとして整理した。
収蔵されている人骨標本群の調査・収集史を簡潔にまとめることとした。これを網羅的に行なうのは困難であるが、遺跡調査の全貌との関係に若干なりとも触れることにより、本館標本群の位置付けを示すことを試みた。なお、文中で個々の標本群を示す場合には余山のように下線を付した。