第2部 展示解説/鉱物界

REGNUM LAPIDEUM

鉱物界の進化

 

鉱床の形成の多様性

[火成鉱床]

 火成鉱床はマグマから有用元素を多く含んだ鉱物が濃集して結晶化した鉱床であるが、マグマから の分化作用の段階によって生成される火成岩にも様々な種類が生じる。火成岩を構成している鉱物 を有色鉱物と無色鉱物とに別けて考えて、それぞれの岩石中に占める割合で火成岩を分類すること ができる。有色鉱物とはマグネシウム(Mg)や鉄(Fe)に富んだ鉱物で「マフイツク鉱物」と呼ばれる。 例えば、かんらん石、輝石、角閃石、黒雲母や不透明鉱物である磁鉄鉱、チタン鉄鉱、クロム鉄鉱な どである。無色鉱物は Mg や Fe を含まずケイ素(Si)に富んだ、鉱物で「フェルシック鉱物」と 呼ばれ、長石、準長石、石英などの無色の鉱物である。マグマが冷却して鉱物が結晶化してくると きに、高温で、は先ずMgやFeに富んだ かんらん石や輝石などのマフィック鉱物が晶出する。 従ってマグマの溶融部分はMgやFeが減り、相対的にSi,アルミニウム(Al),カルシウム(Ca),ナトリウム (Na),カリウ ム(K)等の成分が多くなる。その次に晶出してくる鉱物は、 Caに富んだ、鉱物で、マフィッ ク鉱物としてCaとMg,Feを含む輝石や角閃石とフェルシック鉱物としてCaを含む長石などである。 さらに冷却が進むとNaやKを含む長石や石英が晶出する。このような火成岩の標準的な冷却過程は Bowm(1928)によって提唱されたものである。

 火成鉱床を代表するのは正マグマ鉱床とペグマタイト鉱床である。 正マグマ鉱床はマグマが固化するのに伴って分化作用によってマフィッな成分が濃集し、有用元素か らなる鉱物が結晶化して形成される鉱床である。世界中のクロムやニッケルの大規模な鉱床は、正マグマ鉱床であることが多い。日本では比較的少ない鉱床である。本展では、幌満鉱山(ニッケル)、 音調津鉱山(黒鉛)、富本鉱山(銅)、夏梅鉱山(ニッケル)、広瀬鉱山(クロム)を展示した。

 ベグマタイト鉱床の起源となったマグマには数%程度の水が存在していたと考えられる。マグマからマフ ィックな鉱物が晶出した後の融液は Si,Al,Ca,Na,K 等の成分に富んでフェルシックになる。フェルシックな鉱物である長石や石英が晶出しでも、水は結晶 中に入らないために、マグマ中の水分は徐々に飽和状態になる。水には、晶出した鉱物には含まれな かった元素が濃集してくる。飽和状態を越えた水はマグマから分離して水蒸気となってマグマ中に自由 空間を作り出すことがある。このような空間に、マグマの残液が結晶化すると、それまでの鉱物に取 り込まれなかったタングステン(W),モリブデン(Mo),ベリリウム(Be),ニオプ(Nb),タンタル(Ta)などの 有用元素が濃集してくる。 同時に結晶化する長石、雲母、石英などは自由空間で巨大な結晶を成長さ せる。このような過程で形成される鉱床がペグマタイト鉱床である。日本では、福島県石川地方、 山梨県塩山地方、岐阜県苗木地方、滋賀県田の上山などに大規模なベグマタイトが存在する。本展 では、乙女鉱山(水晶、タングステン) 、苗木地方(正長石、トパーズ) 、田の上山(正長石)を展示した。

[熱水鉱床]

 火成鉱床で述べたように、マグマ中の水が飽和状態を越えて分離した時に、水蒸気は岩石の割れ目などを通って移動していく。この水蒸気の中には、晶出した鉱物には含まれなかったW,Mo, 銅 (Cu), 亜鉛(Zn), 鉛(Pb), 錫(Sn), 金(Au), 銀(Ag) などの元素が含まれている。 岩石中を移動している間に水蒸気は周囲の岩石と反応したり、冷却されて液体になってそこに溶け込んで、いる有用元素を含む鉱物を晶出する。飯山は、鉱床の形態によって、鉱脈鉱床、塊状鉱床、スカルン、班岩銅鉱床に分類する。班岩銅鉱床は、日本には見られない。

 鉱脈鉱床について浅熱水鉱床とゼノサーマル鉱床をみてみよう。マグマから分離した有用元素を含む 熱水は、周囲の岩石の割れ目や断層などを通って移動し、温度の低下とともに有用元素を含む鉱物を 晶出する。最も低温で生成する鉱床は金・銀鉱床で、やや高い温度で銅・鉛・亜鉛鉱床、さらに高い 温度で錫・タングステン・モリブデン鉱床が形成される。飯山によると、金銀鉱床の生成温度は100〜 250℃、銅・鉛・亜鉛鉱床は200〜350℃、錫・タングステン・モリブデン鉱床で300〜550℃と推定する。 この温度の違いは鉱床の生成する深さにも関係していると考えるところから、鉱脈鉱床を浅熱水鉱床 とゼノサーマル鉱床に分類するのである。

1) 浅熱水鉱床

 マグマからの有用元素に富んだ熱水が上昇して地下の比較的浅い所(1km程度)で有用元素を含んだ沈殿 物が生じて形成された鉱脈鉱床である。主として、形成される温度の低い金・銀鉱床と、やや高い銅・ 鉛・亜鉛鉱床との2つのタイプがあり、日本の主要な金属鉱床がこの型の鉱床である。銅・鉛・亜鉛鉱 床としては、秋田県尾去沢鉱山、秋田県阿仁鉱山、長崎県対州鉱山など、また金・銀鉱床としては 北海道千歳鉱山、静岡県土肥鉱山、鹿児島県菱刈鉱山などがある。本展では、稲倉石鉱山(マンガン・ 金・銀・鉛・亜鉛 ) 、イトムカ鉱山(水銀)、鴻之舞鉱山(金・銀)、手稲鉱山(金・銀・銅)、豊羽鉱山 (銀・鉛・ 亜鉛)、千歳鉱山(金・銀)、阿仁鉱山(銅・金・銀) 、荒川鉱山(銅・鉛・亜鉛)、尾去沢鉱山 (金・銀・銅)、鹿折鉱山(金)、細倉鉱山(鉛・亜鉛・金・銀・銅)、佐渡鉱山(金・銀)、三川鉱山(金・銅 ・亜鉛)、高玉鉱山(金・銀)、清越鉱山(金・銀)、土肥鉱山(金・銀) 、津具鉱山(金・銀・アンチモン) 、 大和水銀鉱山(水銀)、倉谷鉱山(金・銀)、尾小屋鉱山(銅・亜鉛・金・銀 )、市ノ川鉱山(アンチモン)、 対州鉱山(鉛・亜鉛)、菱刈鉱山(金・銀)産出の鉱石を展示した。

2) ゼノサーマル型鉱床

 マグマからの熱水が上昇し、冷却過程で有用元素を含んだ沈殿物が生じて形成された鉱床で、浅熱水鉱床より形成温度が高く、錫・タングステン・モリブデンなどが濃集する。栃木県 足尾鉱山、兵庫県明延鉱山、兵庫県生野鉱山などが代表的な鉱山である。高取鉱山(タングステン)、足尾鉱山(鋼、錫、タングステン)、西津鉱山(銅・鉛・金・銀・ビスマス)、平瀬鉱山(モリブデン)、鐘打鉱山(タングステン、鋼、錫)、河守鉱山(銅・銀)、明延鉱山(錫・鋼、タングステン)、生野鉱山(銀・銅・亜鉛、錫、タングステン)、中瀬鉱山(アンチモン、金・銀)、多田鉱山(銅・銀、錫)産出の鉱石を展示した。

塊状鉱床

1) 黒鉱鉱床

 この型の鉱床は、有用元素に富んで熱水が深海底に噴出することで形成される。海底に噴出した熱水は、 海水によって急冷されて有用元素を含む鉱物が沈殿する。黒鉱鉱床は、このようにして形成された鉱床である。鉱石には黄銅鉱・黄鉄鉱を主とする「黄鉱」、閃亜鉛鉱・方鉛鉱を主とする「黒鉱」などがある。秋田県花岡鉱山、秋田県小坂鉱山などが代表的である。本展では小坂鉱山(銅・銀)、釈迦内鉱山 (鋼・鉛・亜鉛)、花岡鉱山(銅・鉛・亜鉛)、土畑鉱山(銅)、与内畑鉱山(銅・鉛・亜鉛)を展示した。

2) キースラーガー鉱床

 塊状となった熱水鉱床は吏成作用を受けることがある。深海底で熱水鉱床が形成され、熱水鉱床が海 洋プレートとともに大洋を移動し、大陸周縁で大陸の下に沈み込む。海洋プレートが大陸の下に沈み込むとプレートの岩石は圧力や温度の上昇を受けて層状に変形し成分も変化する。 岩石は変成岩となり、しばしば結晶片岩が形成される。熱水鉱床も岩石同様に層状に変形する。 このようにして銅や鉄の硫化物の層状の鉱床が形成されたのが、"層状含銅硫化鉄鉱鉱床"とも呼ばれる。 日本の別子鉱山が代表的な鉱床であり、「別子型」とも呼ばれる。茨城県日立鉱山(銅・硫化鉄)、 愛媛県別子鉱山(銅・硫化鉄)、宮崎県横峯鉱山(銅・硫化鉄)が知られ、それぞれの産出鉱石を展示した。

スカルン鉱床

 熱水が岩石の割れ目や断層を通って移動した時、周辺の岩石が熱水と大規模に反応することがある。 例えば、周辺の岩石が石灰岩などの炭酸塩岩であると、熱水との反応が大規模に起こり、その過程で タングステン・モリブデン・錫などの酸化鉱物や鉛・銅・鉄・亜鉛などの硫化鉱物が形成される。 これがスカルン鉱床で、高温ではタングステン、モリブデン、錫、鉄など、また中・低温では鋼、亜鉛、 鉛などの鉱床が形成される。岩手県釜石鉱山、福島県八茎鉱山、埼玉県秩父鉱山、岐車県県神岡鉱山 などが代表的な鉱山である。本展では、釜石鉱山(鉄・銅)、和賀仙人鉱山(鉄)、赤谷鉱山(鉄)、八茎 鉱山(タングステン・銅)、秩父鉱山(銅・鉛・亜鉛・金・銀・鉄)、神岡鉱山(鉛・亜鉛・銅)、 都茂鉱山(銅・鉛・亜鉛)、長登鉱山(銅・コバルト・アンチモン)、尾平鉱山(錫・ 銅・アンチモン・金) の鉱石を展示した。

[堆積成鉱床]

 鉱石を含む岩石が風化や浸食によって場所を移動する間に、機械的に選択され堆積したり、化学的に 溶解・析出して有用元素が濃集して形成される鉱床である。 石灰岩や粘土鉱物の鉱床、層状マンガン 鉱床、あるいは金や白金の砂鉱床などがある。本展では、層状マン ガン鉱床に属する、野田玉川鉱山 (マンガン)と横根山鉱山(マンガン)産出の鉱石を展示した。

 

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