第2部 展示解説/鉱物界 REGNUM LAPIDEUM 鉱物界の進化
鉱床の形成の多様性 人類にとって有用な元素は、微量であれば我々の周囲にある普通の岩石にも当たり前のように含まれている。しかし、その存在量があまりに微量だと、有用元素を抽出するにはコストがかかりすぎるために利用されていない。普通の岩石に比べて数十倍から数千倍も有用な元素が濃集している特別な岩石があり、これを鉱石という。鉱石が工業的に採掘可能な規模で存在する所を鉱床と呼んでいる。なぜ、有用な元素が特定の場所に濃集するのであろうか ? 飯山敏道著の「地球鉱物資源入門」(1998)にもとづいて鉱床の成因を考えて、その成因による分類体系と、そこに見られる多様性を紹介してみよう。 人類が有用元素の効用に気がつき、それを利用しようと考えたのは紀元前3000年頃の青銅器時代に入ってである。有用な金属・非金属元素について体系的に記述したのはプリニウス(23/24〜79)で、 彼の著した「自然史・Historia Naturalis」中の、第33巻「金属の性質」、第34巻「銅」、第35巻 「絵画・画家」、第36巻「石の性質」、第37巻「宝石」で鉱物や鉱床などに言及している。そこで取り上げられている金属は、金、銀、鋼、鉄、鉛、蒼鉛、錫、水銀、(アンチモン)などである。 また無機鉱物として辰砂、鶏冠石、雄黄。宝石として蛍石、水晶、琉泊、ダイアモンド、エメラルド、ルビー、オパール、璃瑠、撤撹石、トルコ石、孔雀石、碧玉、瑠璃、紫水晶などが記載され、それぞれ、産地や特徴、使用範囲、薬効などが記述されている。この著作はいわば自然物の分類記載と いうよりもむしろ百科事典的記載であるが、その後16世紀までの間に鉱物や鉱床などについてのめ ぼしい書物はなく、プリニウスの「自然史」は後世に受け継がれ、影響を与えたのである。プリニウスに次いで鉱物や鉱床について体系的な著作を著したのは、「デ・レ・メタリカ」の著者アグリコラ(1494-1555)である。本書は当時の鉱山技術や冶金技術を総覧したもので、そこには近代技術の萌芽すら感じられる (三枝博音訳、デ・レ・メタリカ−−全訳とその研究,1968)。アグリコラはその序文で、自分の仕事で教えを受けたのはプリニウスだけであると述べていることからも、プリニウスの影響は大きかったと思われる。 「デ・レ・メタリカ」では、「探鉱の方法」、「鉱脈の種類」、「鉱区の測量」、「鉱脈の開掘」 、 「鉱山での道具」、 「鉱山の試験」 、「鉱石の選別から焙焼」、「鉱石の熔解」、 「金属・非金属の分離」などの章立てになっており、鉱山学および鉱山技術学の集大成であった。 しかし利用された有用元素にあっては、プリニウスの時代と殆ど変わらなかった。コバルトやニッケル をはじめとする有用金属元素が発見されるのは18世紀以降であり、さらに利用されるのは20世紀に なってからであった。 私たちが鉱山で採掘しているのは、地球の表面の地殻と呼ばれている部分である。では、16世紀 まで利用されていた金、銀、鋼、鉄、鉛、蒼鉛(ビスマス) 、錫、水銀、アンチモンは地殻にどれくらい存在しているのだろうか。地殻内の元素の存在質量比をみると以下の表のようになる。
鉄を除いて、ごく僅かしか存在しないことがわかる。 ちなみに、地殻を構成している主要な鉱物はケイ酸塩好物で、その構成元素であるケイ素の存在質量比は27.7% 、酸素は 46.6% である。鉄の存在量が多いのは、鉄がケイ酸塩鉱物の構成元素になっているからで、金属として採掘可能な鉄が多 いわけではない。 このように僅かしかない有用元素が、どうして採掘可能なほどに濃集するのであろうか。 ある元素が濃集するためには、その元素がもともとあった場所から移去する必要がある。 ほとんどの元素は単体で存在していたわけではなくて、化合物として岩石を構成していた。 その元素を含む物質が地球のなんらかの活動のなかで変化して、例えば溶融して液体になって移動可能になり、移動先での物理化学条件で選択的に固化して濃集することも一つの可能性 と考えられる。 飯山は鉱床を成因によって火成鉱床、熱水鉱床、堆積鉱床に分類した。 火成鉱床と熱水鉱床は、代表的な移動・濃集の形態で、ある地球のマグマ活動に伴って 形成された鉱床である。火成鉱床はマグマから有用元素を多く含んだ鉱物が 選択的に結晶化して濃集した鉱床であり、熱水鉱床はマグマによって生じた熱水に有用元素が溶け込んで移動し晶出したことによって形成される鉱床である。 堆積鉱床は、鉱石を含む岩石が風化や浸食によって場所を移動する聞に、機械的に選択され堆積したり、化学的に溶解・析出して有用元素が濃集して形成される鉱床である。
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