地震出火 細見記(仮)
江戸時代のベストセラーの定番であった「吉原細見」(吉原のガイドブックで、各店の遊女の名前や位、値段などが記されたもの)の形を借り、地震後の被害状況などを記したもの。戯作の形態で、地震情報を読み取ることができた。
図61 地震出火 細見記(仮)
{袋}
江戸四里四方
近郷近在
地震出火 細見記
五街道
{一}
男女死人怪我人惣高
ここに西の久保神谷丁
のものなるよし年の
ころ二十七八の女当才の
子と三四才の子両のわきの下口へ
かかへ天徳寺はかばの地上ほり
おのれも子供も其穴へ顔をおしいれ
死いたり其ものをしる人見付その
おつとニつげ引取女ながらも
よくごよく死でも
かおさへやけたたれ
すバ犬死なるまじと
さつそくの■■■([虫喰])
地をほり■■ニうづめたるハげニあわれ
なる事どもなり
一番組
土蔵
二十三ケ所
つぶれ家百三十三けん
日本橋北品川町外もより丁々
変死人男女九十六人
怪我人同二十四人
名まへしれづ同八十九人
二番組
同
八十七ケ所
同百八十九けん
堀江町外もより町々
変死人男女八十六人
怪我人同七十五人
名まへしれづ同百三十八人
三番組
同
四十一ケ所
同
百十七けん
浅草平衛門町外もより町々
変死人男女五百七十八人
怪我人同二百七十一人
名まへしれづ同八百十八人
男女■■■のもの十二人
同
土蔵
家
つぶれ
少々
日本橋南外もより町々
変死人男女十七人
怪我人同五人
名まへしれづ同百三人
四番組
土蔵
家
五十三けん
呉服町外もより町々
変死人男女二十九人
怪我人同二十人
名まへしれづ同五百十七人女ハなし
五番組
土蔵/八ケ所
つぶれ家
七十けん
鈴本町外もより町々
変死人男女三十八人
怪我人五十四人
名まへしれづ同五人
{後略}
地震の戯文(仮) 弘化四年(一八四七)
善光寺地震の関係のことを、調子の良い節にまとめ、絵を添えたもの。
図62 地震の戯文(仮)
いつそ
あんじら
れるよ
古里の
親は
もう泊た
かへ往来の
川々そんなに
おうなりで
ないよ
つぶされ
た人
わたしやもう
いやたよ
しん
しう
ハ見たらおそろ
しい大
きいよの
じしんの
ゑつ
あれさ
はいたよ
つなミの
親
ふね二度目
たからけがを
しまいねへ
しんしうの
娘は
まことに
いいこころ
もちだよ
しんた
唐人もう
われたかへ
地しんの
じびた
はやくして
おくれよ
地しんの
はなし見立町鑑 大地しん
相撲番付の形を借り、江戸の町名をことば遊びに使用して、地震の状況を洒落ている。地震以後の出来事と江戸各町の関連が興味深い。
図63 ゆらゆら豊問答
ことば遊びの代表的な存在である「なぞ」(現在のなぞなぞにあたる)で、地震に関係したもので構成されている。このなぞは、「○○でも○○とはこれいかに」が問題で、その答えとして「○○でも○○というがごとし」と続く。例えば、「地震の時でも雷門とはこれいかに」「焦臭くもないのに仁王門というがごとし」といったものである。
図64 ゆらゆら豊問答
ゆらゆら豊問答
大黒のつち
うごかして世の
中に宝の山を
積かさねける
{上段一段目}
おなじやうに
ゆられながら
ぢしん
ばんとハこれいかに
○
のじゆくをしても
いへぬしといふが
ごとし
よし原を
やけ原とハこれ
いかに
○
ミんなやけても
七けんだの五けんだのと
いふがごとし
ぢしんのときでもかミ
なりもんとハこれいかに
○
きなくさくもないに
にほふもんと
いふがことし
こわいめにあい
ながら万ざい
らくとハこれ
いかに
○
やけざけを
のんでたいへいらくを
つくがごとし
ぢしんやけで
まるはだかに
なつたうへ
こしのたたれぬ
人をたちのまんま
とハこれいかに
○
はたらいてたすかつた人を
大ぼねをりといふかごとし
人のおおく
とふるところを
馬ミちとハこれいかに○
せうぎにも
あらぬにこまつたと
いふがごとし
{上段二段目}
こんどのことで
むしんの文
をよこして
ぢしんに
いつたとハ
これいかに
○
やけもせぬお客
をあつくなつてくると
いふがごとし
おおきないへを
御小やとハ
これいかに
○
ちいさな
うちでも
大やさんと
いふがことし
ひもとでもなくて
ぢしんやけとハ
これいかに
○
大われをしても
小われたと
いふがごとし
あをものでも
ないに大ゆり大ゆり
とハこれいかに
○
さかなにも
かじきの
あるがごとし
どろミづが
わきだしても
上水とハこれいかに
○
すなをふき
だしてもおちや
の水へんと
いふがことし
ざいもくや
げんきんにかねをとつて
川岸で
うるとハこれいかに
○
わがたてたるいへを
かりたくと
いふがことし
{下段一段目}
しんだ人も
ないのに小づか
はらとハこれいかに
○
くわじが
なくても
月やくと
いふがごとし
ひやざけを
のんでやけ
ざけとハ
これいかに
○
地しんの
いらぬまえ
からのミつぶれ
るがごとし
いたミも
せぬに
くづればし
とハこれいかに
○
やけもせぬのに
かぢばしといふかごとし
地がさけも
せぬ所を
わり下水とハ
これいかに
○
大はそん
しても
とく右衛門丁と
いふがことし
大ぜいのたをれ
ものを
しにんとハ
これいかに
○
数(す)千人の御火けしを
御にんずといふがことし
{下段二段目}
つちいちりも
せぬにどろ
ぼふとハ
これ
いかに
○
やけバの
てつだいにもあらで
ごまのはいといふがごとし
火をふせぐ
こめのくらを
ぢしんに
つちを
おとすとハ
これいかに
○
いきてゐる人でも
ぼんくらといふがごとし
いがまぬ
いへを三かくとハ
これ
いかに
○
地しんまへに
井戸がにごつても
きよすミ丁といふがことし
りつぱにそうぞく
すニかねもちのいへを
づふね家とハ
これいかに
○
こわれた土蔵でも
おかめだんごて
いいくらといふがごとし
いがミもせぬに
すじかいとハ
これいかに
○
たおれぬ所も
よこ丁と
いふがごとし
一出火口数 三十二ケ所