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特別展

「ディジタルとミュージアム」

神内 俊郎


近年のコンピュータの普及は社会インフラから個人の生活空間まで、多くの分野に及んでいる。またその形態も大型のものから超小型のものまで多岐にわたり、進化の速度にもまた驚くべきものがある。実現しつつあるユビキタス社会も、インターネットを支えるコンピュータの普及なくしてはありえない。

 コンピュータがここまで普及した背景には、その能力の向上と共に、世の中のモノ(たとえば文字、音、画像など)をディジタル情報化し、それらをコンピュータが自在に扱うことができるようになったことが挙げられる。

 今日、博物館の世界でもディジタル化の波は押し寄せており、この技術をどのように活用するべきかが議論されている。

 今秋、「ディジタルとミュージアム」展と題して展示会を開き、会期中に公開講座を開催することとなった。これを機会に、ディジタル技術を博物館に活用するひとつの手法を提示したいと考えている。特にディジタル技術が博物資料や文化財などから発せられる情報の発信手段として、有効な道具のひとつであることを示していきたい。

展示内容
近年発達の著しいディジタル技術と博物館との接点を中心に、「“ディジタル”とは何か」「文化とディジタル」「芸術とディジタル」「学問とディジタル」「国際化」「新しいミュージアムの形」などといった観点から展示を行う。

 「“ディジタル”とは何か」では、“ディジタル=コンピュータ”と捉え、20年ほど前のコンピュータを展示し、ディジタルの原点の確認と、現在との比較を行ってみたい。

 「文化とディジタル」「芸術とディジタル」では、世界遺産である“バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群”や日本の国宝である“国宝源氏物語絵巻”など、後世に残し伝えて行くべき文化財に対してディジタル技術を応用したディジタルアーカイヴの各種事例を紹介し、これによりミュージアムにおけるディジタル技術のあり方のひとつを提示したい。

 単にアーカイヴを構築し残すだけではなく、バーミヤンの破壊された壁画の修復や復元、失われた龍の天井絵の再現、そしてオリジナルに近い質感を有するプリントなど、ディジタル技術ならではの事例を紹介する。

 「学問とディジタル」では、東京大学で行われている“象形文化の継承と創成に関する研究”にて構築された、ローマ・ポンペイに関する集積検索システムを中心に紹介する。これはディジタル映像を中心とした情報の集積システムで、ネットワークを介して研究者が情報を追加修正していくことができるものである。大学博物館ならでは特徴を生かし、ディジタル技術を用いることによって得られたこのような最新の研究成果の紹介も行いたいと考えている。

図1 芸術とディジタル
絵葉書から巨大龍を復元(日立製作所)
図2 学問とディジタル
象形文化データ集積検索システム(東京大学 PICURE-TSS)

図3 東京大学総合研究博物館小石川分館
学誌財グローバルデータベース
 「国際化」では、ディジタル技術を通して世界に情報を発信するのみでなく、その国が持つ有数の文化財のディジタルデータによって得られる様々なもの(例えばデータそのもの、画像をプリントしたもの、さらにそれをその国の工芸品に応用したものなど)を国際交流の使者、いわゆる“ディジタル文化大使”として活用する事例などを紹介する。

なお“ディジタル文化大使”は、単なる物の移動のみにとどまらず、国と国の、産業と産業のコラボレーションをディジタル技術を用いることで実現し、これまでにない新しい産業を興すことまでを視野に入れている。

 「新しいミュージアムの形」では、“学誌財情報拠点”として構想されている当博物館小石川分館の「学誌財グローバルベース」を紹介するとともに、さらにそのシステムを発展させたものを紹介できればと考えている。

 なお、以上に挙げたいくつかの観点にしたがって展示内容や展示物を予定しているが、会場内の配置については、さらに別の観点による展示を試みてみるつもりである。特に庭や建築物といった外部空間を会場内に再現するなど、ディジタル技術を活用する実験の場としても臨んでみたい。

公開講座
本会期中には、「ディジタルとミュージアム」公開講座も開催する。

 「“ディジタル”とは何か」「文化とディジタル」などといった、展示と同様の観点から、東京大学のほかに東京芸術大学や国立情報学研究所の先生方や、イタリア、フランス大使館の方々などといった、東京大学内外各分野の見識者を招待し、計6回を予定している。それぞれの立場からディジタルとの関わりについて語っていただく。

 また、講演者が紹介した事例を展示室でもタイムリーに紹介していく。これにより、講座内容に関して来館者の理解がより深まるであろうと考えている。

特別発表会
さらに、ディジタル技術と絡めた「新しいミュージアムの形」を求めて、若手の研究者、学生の方々を中心に気軽に発表しディスカッションする場を設け、活発な意見交換を行いたいと思っている。

時間と空間の記録
従来こうした展示は、会期が過ぎると当然の如く解体され消えて行く。一般的には展示の度に図録が作成され、それが展示の記録として残る。しかし展示会場における展示物のレイアウトや来館者の様子などといった、“展示の情景”、もしくは“空間と時間の記録”が十分になされていないと考えている。

 今回、この「ディジタルとミュージアム」展の“空間と時間の記録”にチャレンジしてみたい。

 公開講座も含め展示会そのものを記録蓄積し、いつでも呼び出して見ることができる、それがディジタルであるからこそできることであり、これからのミュージアムの持つべき機能のひとつではないかと思っている。

 本展示会を機にディジタルの面白さ、すごさを伝え、さらにこれらを通してディジタル技術を活用した新しい博物館の姿や、博物館の重要性・可能性を提示したい。

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(本館客員教授/情報工学)

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Ouroboros 第25号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成16年9月15日
編集人:佐々木猛智・高槻成紀/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館