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巡回展

東京大学総合研究博物館の巡回展

田賀井 篤平


東京大学総合研究博物館は、学内における教育研究の成果を一層広く公開するため、平成15年度より国内巡回展を積極的に行うようになりました。それまでの展示は、全国の方々に「見に来ていただく」という姿勢ですが、巡回展は、「見ていただくために展示会が出て行く」という積極的で能動的な姿勢を示すものです。この「巡回展」は、複数のミュージアムがそれぞれの責任において、それぞれの展示スタイルで主催するという従来のものと性格を異にしています。開催希望を公募し、コンテンツと展示デザインの両面において総合研究博物館のイニシアティヴでおこなうものです。それだけに、総合研究博物館の責任や負担は大きいのですが、大学博物館に相応しい巡回展と考えると他の選択肢はありませんでした。

 その第一弾として平成15年1月から6月まで小柴昌俊先生ノーベル物理学賞受賞記念特別展示「ニュートリノ」展を全国巡回させることとして、「展示コンテンツのパッケージ化」について議論を重ねました。2400×1200mmのパネルを24枚作成し、その側面にジョイントを設け、支持スタンドのジョイントに固定する。支持スタンドにはパネルを一列に配置するものと直角に配置するものの2種類を作成し、会場構成に自在に対応できるようにする。また支持スタンドには配線ダクトを設け照明機能を付加する。

個々のパネルに展示コンテンツを落とし込み、光電子増倍管やノーベル賞メダル等の展示物、また神岡観測施設からのリアルタイム測定映像、建設ビデオなどの映像データについてもコンセプトがまとまった時点で、マスコミを通じて巡回展の構想を全国に発信しました。「ニュートリノ展巡回へ 東大が開催地を募集中:ノーベル賞を受けた成果にじかに触れてー。小柴昌俊東京大学名誉教授がノーベル物理学賞を受賞したのを記念し、東京大学総合研究博物館(東京都文京区)が開いている「ニュートリノ展」が来月から各地を巡回する」という時事通信社のニュースとして全国に報道されると、次の日から、問い合わせのメールや電話・手紙が殺到しました。

博物館ばかりでなく図書館、学校、文化センター、NPO等々。その反応の大きさは予想を越えるものでした。必要な経費は運送費と設営・撤去費だけで、設営やミュージアムトークについては総合研究博物館が全面的に協力する。こちらから出した条件は「東京大学総合研究博物館・宇宙線研究所の共催」と「無料公開(有料館では通常の入館料で)」の二つでした。そして、東京大学総合研究博物館最初の巡回展は、平成15年7月5日に新潟県糸魚川市フォッサマグナミュージアムでスタートを切りました。当初は9月7日までの予定でしたが、9月28日まで延長されました。ミュージアムトークや記念講演会の開催にも協力した結果、来館者数は2万3千人に達しました。

その後、神奈川県横須賀市人文・自然博物館(平成15年8月1日〜8月10日)、富山県中新川郡上市町北アルプス文化センター(平成15年10月1日〜10月20日)、大分県大分市明野アクロス(平成15年12月20日〜平成16年1月11日)、京都府木津町きっづ光科学館ふぉとん(平成16年3月13日〜4月4日)、青森県青森市青森郷土館(平成16年5月28日〜6月23日)と、ほぼ切れ目無く全国を巡回しました。これからも「ニュートリノ」展は岐阜県羽島市、地元文京区と巡回します。

 各地で行ったミュージアムトークも好評で、どの開催地でも予想を越えた入場者を記録し、また新聞やテレビなどのマスコミの関心も高く、開催はもちろんミュージアムトークも報道されました。どの報道でも「ニュートリノという基礎科学を魅力的に紹介している」ことと共に、東京大学の積極的な姿勢も評価されていたことが印象に残っています。

 巡回展の与えたインパクトは非常に大きいと思います。まず、東京大学総合研究博物館の認知度が全国規模で高まったこと。また、大学博物館の独自性と高いレベルを喧伝できたこと。東京大学の社会貢献・地域貢献に対する積極的な姿勢が評価されたこと。そして、総合研究博物館と地方との機関間だけでなく人的なネットワークが形成されたこと、など数多くの副産物をもたらすことが出来たと考えます。特に、ミュージアムトークを積極的に行ったことが、大きく貢献したことは間違いありません。このネットワークこそ、今後の博物館の活動にとって重要となるでしょう。

 来年度は、新たに「石の記憶—ヒロシマ・ナガサキ」を全国に巡回させる予定です。既に数館から問い合わせが来ています。来年は原爆投下60年の年でもあり、まさしく石の記憶を蘇らせる絶好の機会となります。総合研究博物館での特別展示で示された来館者やマスコミの関心の高さからも、「解き明かされた石の記憶」は、巡回展として全国に東京大学から発信するべきものであると確信します。特別展に因んで開催された公開セミナーの参加者の熱い気持ちに接して、ミュージアムトークも全力で取り組みたいと考えています。

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(本館教授/博物資源開発研究系)

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Ouroboros 第25号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成16年9月15日
編集人:佐々木猛智・高槻成紀/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館