第9 章土器の長期的変化に関する検討

 前章では、彦崎諸型式について個別に型式的検討を行ったが、ここでは少し見方を変えて、土器型式ごとの特徴を定量的に把握するため、いくつかの属性を取り上げて、前・中・後期の各型式を通した長期的な属性の変化について、二三の検討を試みるものである。ただし、彦崎貝塚資料では、前・中・後期の全般にわたる土器型式について、十分な資料数が確保されているわけではないので、ここでは、資料的に充実している前期の第2、3群、中期の第7群、後期の第12、13、15群を中心として検討を行うことにしたい。なお、以下に示す点数は口縁部破片から算定した個体数に基づくものである。


9.1 口径・底径の頻度分布

 まず、土器の法量と規格性を大雑把に概観するために、前期の第2、3群、中期の第7群、後期の第12、13、15群のうち、口径を推定しうるものについて、その頻度分布図を作成した(Fig.166)。口径は、器種によっても異なるので、器種を考慮した細分類を行っていない前期の第2、3群については、本表中では深鉢と、鉢・浅鉢を区別した。第2群のうち、浅鉢としたものは、47や451など、第3群のうち、鉢としたものは357や586など、浅鉢としたものは388、389などである。
 第2群(彦崎Z1)は資料数が少ないが、深鉢には口径30cm程度の中型品、20cm程度の小型品があり、第3群(彦崎Z2式)のような大型品は見られない。浅鉢には口径20cmを大きく超えるものはなく、これは第3群でも同様である。第3群(彦崎Z2式)はA、B、C 類に分けて図示した。もっとも資料数の多いC類では、口径40cm前後、30cm前後、16~18cm前後にピークがあり、大型、中型、小型の区別を認めても良い状況である。一方、A類では、資料数が不十分であるが、40cm前後、30cm前後にまとまりがあり、これはC類の大型品、中型品に対応するものと考えられる。なお、表中には、小型のものがあらわれていないが、実際には139のように小型品として良いものも存在している。
 中期の第7群(船元Ⅰ―Ⅱ)は、鉢や浅鉢として区別できる形態のものを含まず、形態上はすべて深鉢ととらえられるので、表では一括して示した。28~38cmにかけてひとつのまとまりがあり、小型品がほとんど見られない点に特徴がある。
 後期については資料数が不足しているが、もっとも資料数の多い第15群(無文土器)では、深鉢では突出したピークが見られず、20~40cmにかけて連続的な分布を示す一方、浅鉢では口径30cm以上の大型品、26cm程度の中型品、20cm以下の小型品に区分できそうである。特に、浅鉢において大型品、中型品が見られる点は、前期の浅鉢との相違として重要であろう。一方、第13群(彦崎K2)では、深鉢に比して鉢は小型で、浅鉢はさらに小型の傾向を示す。第12群(彦崎K1)では、口径を推定できるものがA、B類に限られるが、B類はA類に比して口径が大きく、後期土器全体から見てもこの値は突出している。
 底部については、群別に分類することが不可能なので、おおまかに前期、中期、後期に大別し、底径の頻度分布図(Fig. 167)を作成した。前期の底部は、そのほとんどが第3群に伴うものと見られるが、8~12cmにピークがあり、全体的なドットの分布範囲は広い。中期の底部は、前期のものよりやや小型に偏り、6~10cmにピークがある。後期の底部はさらに小型で、4~6cmに著しい集中を示す。なお、後期の底部には1点のみ径10cmを越えるもの(1294)があるが、この底部は、底面から直線的に立ち上がる特異な形態を示している。


9.2 色調の変化

 次に、土器の色調を取り上げてみたい。縄文土器は野焼きによって焼成されるため、器面の色調は均質でなく、また二次的な被熱や、埋没中の劣化によっても色調は変化しうるので、実際の色調を統一的にデータ化することは困難と言わざるをえない。このように、厳密に言うといろいろと問題があるわけだが、今回は、ごく大雑把な把握を目的として、黒い、あるいは暗い色調の もの、明るい色調のもの、灰色味をおびたものを区別するため、土器の色調を、①黒・黒褐色(black)、②暗褐色(blackish)、③灰褐色(gray―brown)、④褐色(brown)、⑤明褐色(light―brown)に分類することとした。色調は各個体の部位によっても異なるため、今回は、口縁部付近の外面の基調をなす色調を検討対象とした。また、煤の付着や二次焼成、劣化によると見られ る色調の変化は、極力排除するよう心がけたが、小片も多く、厳密を期すことは難しい状況であった。
 Fig. 168は、各群における各種色調の占有率を示したものである。前期の第2群では暗い色調のものが多いが、第3群では黒色系の比率がやや減少する。この傾向は中期の第7群でさらに徹底され、後期の第12群に続く。ところが、第13群では一転して黒・黒褐色の比率が増加し、過半を占めるまでになる。また、第15群の無文土器でも黒色系のものが高い比率を占めるが、第13群ほどではない。


9.3 器壁の厚さ

 続いて、器壁の厚さについて見てみたい。色調と同様、厚さもデータ化することが難しい属性であるが、今回は、口縁部付近の厚さをmm単位で測定することとした。計測にあたっては、局所的な肥厚部などは避け、各個体についてできるだけ普遍性のある数値を得るよう努めた。
 Fig. 169は、各群別の器壁の厚さについて、1mmごとの頻度分布を百分率で示したものである。前期の第1、2、3群では、いずれも厚さ4mm以下の薄手のものが主体を占めており、とりわけ第2群では、半数以上が3mmと極めて薄手である。中期の第7群は、前期よりも厚く5~7mmに頻度分布のピークがあり、グラフは全体としてなだらかな山を描いている。第8、9群は資料数が少ないが、7mm以上の厚手の類が半数以上を占める。後期の第12群も、第7群と類似したグラフを描くが、第13群では深鉢では7割強が5mmに集中し、深鉢に比してやや薄手の鉢や浅鉢などでも、約9割が5~4mmに集中する。全体として、第12群に比して薄手化するとともに、値のばらつきが限定的になるわけであるが、これは土器製作の上での規格性が強まったことを示すものと考えられる。


9.4 縄文

 最後に縄文の撚りについて検討しておこう。第3 群の縄文については先に検討したので、ここでは中期の第7群、後期の第12、13群を取り上げる(Fig. 170)。
 中期の第7群A、B類では、大多数がRLの撚りを示す一方、C類ではRLとLRの比はおよそ5:4となり拮抗した比率を示す。全体として第7群ではRL優勢の傾向を認めることができるが、これは前期の第3群の新しい段階に見られるRL優勢の傾向を受けたものであろう。
 後期の第12群では、縄文施文をもつものともたないものとが量的に拮抗し、用いられる縄文の撚りはほぼRLに統一されている。縁帯文土器に先行する福田K2式では、縄文の撚り方向はほぼRLに統一されることが知られており(泉・松井1989)、第12群におけるRLの圧倒的優勢も、この伝統を引きついだものと考えられる。一方第13群では、縄文の撚りは一転してLRが優勢となり、ほとんどの個体に縄文が施される点でも第12群とは大きく異なっている。また、先にも触れたように、特殊な撚りの縄文が目立つことも、本群の大きな特徴である。

(山崎真治)