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ウミエラ類標本データベース

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東京大学総合研究博物館動物部門所蔵ウミエラ類標本

今原幸光

(財) 黒潮生物研究財団 黒潮生物研究所 和歌山研究室

コレクションの概要

 今回の調査では、保存されていた62本の標本瓶について、まず最初に保存液の種類を確かめ、フォルマリンが使われていた場合はエタノールに置き換えた。次いで、標本の写真撮影並びにラベルの読み取り作業を行った。ウミエラ類の種の同定は、ごく一部の特徴的な種を除くと、顕微鏡下での解剖学的な検討を行う必要があるが、今回は、原則として肉眼で判別可能な範囲での同定に止めた。また、一つの瓶の中に明らかに複数種や産地の異なる標本が混在していた場合は、それらを種類ごと及び産地ごとの瓶に取り分けた。その結果、最終的な標本瓶の数は69本になった。このような作業の過程で、当コレクションには、トムソンとレネットの研究材料 (Thomson & Rennet, 1927) が多数含まれていることが明らかになった。これらの標本については、できる限り記載標本の特定を行うとともに、ラベルの産地情報等が読み取り不可能であった標本については、彼らの論文に記述されている情報を付け加えてリストを作成した。

 今回の調査を通して、28種69ロットのウミエラ類標本が確認された。これらの中には、トムソンとレネットが報告したウミエラ類24種1変種中の21種39ロットが含まれていたが、彼らが新変種として記載したPennatula phosphorea var. constricta Thomson & Rennet (Merase, South of Prov. Awa, 400 fath, 7th Apr., 1896, Coll. Aoki) のタイプ標本と下記4種の標本は見つからなかった。

トゲウミサボテンEchinoptilum mackintoshi Hubrecht

アンソプティラム属の一種Anthoptilum thomsoni Kolliker

ヤナギウミエラ属の一種Virgularia kuekenthali (= V. brochii Kukenthal)

トゲウミエラ属の一種Pteroeides tenerum Kolliker

 ラベルから確認された標本の収集期間は、1890年 (明治23年) から1926年 (大正15年) であった。採集範囲は、相模湾が多かったが、宮城県石巻湾、駿河湾、沖縄県西表島の標本も含まれていた。今回同時に調査を行ったウミトサカ類標本では、小笠原諸島や高知及び九州産の標本も含まれていたが、当コレクションにはそれらの地域は含まれていなかった。なお、ビューフォート (米ノースカロライナ) 沖産のウミシイタケ属Renilla reniformis Lamarckと、マーサス・ヴィネヤード島 (マサチューセッツ) 沖産のウミエラ属の一種Pennatula aculeata Danielssen及びアルバトロス号がベーリング海で採集したフサウミエラ属の一種Umbellula sp.が含まれていた。標本の中には、種名の記されたラベルの入っている場合が多かった。トムソンとレネットの論文にも種名ラベルの存在を示す記述のあることから、彼らの研究以前に誰かが同定を行ったものと考えられるが、それらの同定者名は特定できなかった。採集者の中には、ウミトサカ類標本と同様に、東京大学動物学教室第3代教授の箕作佳吉 (三崎臨海実験所初代所長)、第4代教授の飯島魁 (同臨海実験所第2代所長) 及び三崎臨海実験所の名物採集人青木熊吉の名前がたびたび出てきていて、これらの標本の多くが三崎臨海実験所を中心に収集されたことが伺える。相模湾産の標本には、イギリス人商人で標本商を手がけていたアラン・オーストン (Alan Owston) の名前もしばしば登場した。

 下記の目録は、原則としてカリフォルニアアカデミーのG. C. Williamsとスミソニアン自然史博物館のS. D. CairnsがWEBで公開している最新の分類体系に基づいて配列した。

[ http://research.calacademy.org.research/izg/OCTOCLASS.htm ]

 標本情報は、次の順に要約して記述したが、該当事項のない場合あるいは不明な場合は項目自体を省略した。①標本番号、②標本の数量、③Type status: タイプ標本である場合はその位置、④Locality: 一枚あるいは複数枚のラベルから読み取った産地、⑤Date: 採集日、⑥Collector(s): 採集者名、⑦Label data: 元ラベルの記載内容、⑧Reference: 論文発表に使われた場合はその文献情報、⑨Remarks: その他の情報。産地については、ラベルに記載されていた地名だけでは具体的な場所 (海域) を特定しにくい場合もあったので、県名または海域名を最初に記述したが、その中には筆者の責任において判断を下した場合も含まれる。採集者名についても、同様に筆者の推測も含めてできる限りフルネームを記述した。⑦の元ラベルの記載内容は、ラベル中には文字の消えかけているラベルも散見されたことから、ラベル情報の保全を目的とすると共に、筆者の推定した産地名等に誤りがある場合に備えて記述した。

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