第2部 展示解説 動物界

軟体動物の分類と系統関係

頭足綱(Class Cephalopoda)

 

鞘形亜網 (Subclass Coleoidea):

 外殻性の殻はなく、 貝殻は体の内部に存在するか、退化的であるか、全く失われている。 2 対の腕 (arm) が口の周りにあり、 1対の触腕をもつものともたないものがある。 鰓と腎臓は 1 対。腕には吸盤がある。次の 4目に分類されている。

 (1) コウイカ目 (Order Sepioida):

 2対の腕と 1対の触腕 (tentacle) をもち、触腕は基部にある特別なポケットに収納することができる。吸盤には柄とキチン質のリングをもつ。貝殻は石灰質のものと、キチン質のものと、無いものがある。 Sepiida,Sepioidea と表記されることもある。

 コウイカ目は 5つの科に分類されている。トグロコウイカ科 Spirulidae はトグロコウイカ Spirula spirula の 1属 1種である。螺旋状の殻 ( 佐々木 ,2002: 図 1-10) は体内に埋もれている。コウイカ科 Sepiidae(佐々木 ,2002: 図 1-7,1-8) は内臓塊の背側に扇平な石灰質の殻をもつ。 ヒメイカ科 Idiosepiidae のヒメイカ Idiosepius paradoxus は外套長 2cm 以下で、頭足類の中では最小である。他にミミイカダマシ科 Sepiadariidae, ダンゴイカ科 Sepiolidae の2科がある。 Clarke and Trueman(1988) はダンゴイカ科とヒメイカ科をコウイカ目から分離して、 ダンゴイカ目 (Order Sepiolida) を提唱した。

 (2) ツツイカ目 (Order Teuthoida):

 2対の腕と 1対の触腕をもつ。吸盤は柄とキチン質のリングをもつ。貝殻は有機質で細長く、軟甲(gladius) と呼ばれる。イカ類の学名には末尾に -teuhis がつくものが多いが、 teuthis はギリシャ語で「イカ」のことである。 2亜目に分類される。 Teuthida 、Teuthoidea と表記されることもある。

 閉眼亜目(Suborder Myopsida) は眼の表面が験膜に覆われて閉じている。ヤリイカ科 Lolignidae、 ピックフォードイカ科 Pickfordiateuthidae 2科のみが含まれる。ヤリイカ科には、ヤリイカ Loligo bleekeri、ケンサキイカ Loligo edulis、ジンドウイカ Loliolus japonica のように食用種が多い。アオリイカ Sepiotheuthis lessoniana は日本産のイカ類では、食品として最も高級品である。アオリイカは鰭(ひれ) が外套膜の全長にわたって位置するためコウイカアのように見えるが、石灰質の殻をもたない点で異なる。 ピックフォードイカ科はピックフォードイカ Picrodiateuthis pulchella 1種がフロリダに分布するほかその近辺にあと3種あるのみで、一般には知られていない。

 関目亜目 (Suborder Oegopsida): 上記以外のイカ類は、眼が表皮で覆われず、レンズがむき出しになっているため開目亜目に分類 される。ホタルイカモドキ科 Enoploteuthidae のホタルイカ Watasenia scintillans は発光現象で特に有名である。しかし、この種に限らず、多くのイカ類が発光器をもっている。ヤツデイカ科 Octopoteuthidae の種の成体では触腕がなく、腕が 8本 しかない。ツメイカ科 Onychoteuthidae は触腕に鉤をもつ。テカギイカ科 Gonatidae では腕に吸盤とともに鉤が並ぶ。この科の種は触腕をもっているが、タコイカGonatopsis borealis は成体では触腕を欠く。

 ダイオウイカ科 Architeuthidae の種は巨大で、最大の軟体動物であるだけでなく、無脊椎動物中最大の生物である。ダイオウイカ類は世界中に何種類が分布しているのか正確には分かっていない。日本産の種類にはArchiteuthis japonica という学名がつけられており、和名のダイオウイカはこの種のことを指している。ゴマフイカ科 Histioteuthidae は体の表面に発光器が規則的に配列しており、ごまをまぶしたように見える。また、左側の眼が右側よりも大きくなる点が特異である。ヒレギレイカ科 Ctenopterygidae のヒレギレイカ Ctenopteryx siculus は鰭が多数の触手状に切れ込んでいる。学名の cteno- は「櫛 」 を意味する。ソデイカ科 Thysanotheuthidae のソデイカ Thysanotheuthis rhombus は外套の全体に わたって鰭があり、体が菱形にみえる (rhombus は英語の rhomboid に対応し、「偏菱形、長斜方形 」を意味する) 。アカイカ科 0mmastrephidae は外套が筒状で鰭が短く、漏斗を外套膜に固定する漏斗軟骨器の形状 (逆 T字形 ) が特徴的である。多くの水産有用種を含み、 スルメイカ Toduodes pacificus は日本のイカ類で最も重要な水産資源である。この他にも多くの科があり、20以上の科に分類されている。イカ類 の分類については奥谷 (1995) に詳しく解説されている。

 (3) コウモリダコ目(Order Vampyromorpha):

 体全体が寒天質で黒く、大型の発光器がある。腕は 2対。 成体では 1対のひれがあるが、若いときには大小 2対ある。吸盤は 1列で角質環がない。吸盤の両側には触毛がある。外套中には軟甲をもつ。コウモリダコ科 Vampyroteuthidae 1科のみ、 1属 1種 ( コウモリダコ Vampyroteuthis infernalis) を含む。属名は「コウモ リ」を意味する vampyrus に由来する。種小名の infernalisis は「地獄」 を意味する。世界の熱帯・亜熱帯の水 深 500〜1500m付近に生息する。

 (4) 八腕形目 (Order Octopoda):

 いわゆるタコ類を含む。腕は 2対。吸盤が 1列または 2列ある。吸盤には柄がなく、キチン質 のリングを欠く。 1対の鰭をもつものともたないものがある。貝殻は退化して軟骨質に変化しているか、あるいは全く無い。

 有触毛亜目 (Suborder Cirrata) は腕に吸盤だけでなく触毛の列をもつことが特徴である。ヒゲダコ科 Cirroteuthidae、ジュウモンジダコ科 Stauroteuthidae、 メンダコ科 Opisthoteuthidae の 3科に分類される。いずれの科も体は寒天質で、深海の海底付近に生息する。 1対の鰭をもち、支持軟骨によって支えられている。 腕の吸盤は 1列で両側に触毛の列が並ぶ。腕の間が広い傘膜によって覆われている。特にメ ンダコ科では顕著で、体全体がお椀をふせたような形に見える。

 無触毛亜目 (Suborder Incirrata) では腕に触毛が無い。普通見られる「タコ」のほとんどはマ ダコ科 Octopodidae に属する ( 図 14) 。

 マダコ Octopus vulgaris は世界中に分布することになっているが、 1種類ではない可能性も ある。ミズダコ Octopus dofleini は 3mに達する大型種である。ヒョウモンダコ Hapalochlaena fasciata は強い毒をもつ危険な種類であり、咬まれないように注意が必要である。タコ類の大部分は底生性である。しかし、ムラサキダコ科Tremoctopodidae のムラサキダコ Tremoctopus violanceus gracialis は表層〜中層を浮遊 している。アミダコ科 Ocythoidae のアミダコ Ocuthoe tuberculata も同様に浮遊性であるが、雄はサルパ類の皮殻の中に入る特殊な性質をもつ。 アオイガイ科 Argonautidae の種も浮遊生活を送り、貝殻をもつことで知られている。しかし、アオイガイ科の殻 ( 図 15) は、オウムガイ類のように浮力を得るのためにあるのではな く、雌が卵を保護するためにられる。 そのため、内部には隔壁や連室細管はない。雄は殻をもっておらず、雌よりも極端に小さい。 Beesley et al.(1998) では無触毛亜目は 9科に分類されている。

 

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