第2部 展示解説 動物界

軟体動物の分類と系統関係

頭足綱(Class Cephalopoda)

 

 頭足類には、下記のように他の軟体動物には見られない多くの特徴的な形態が発達する。 (1) 貝殻をもつ種では、貝殻の内部が隔壁によって仕切られており、連室細管を通じて浮力を調節する機能をもつ。 (2) 外套腔内の水を噴射して遊泳方向を変えるための漏斗をもつ。 (3) 口の周囲に腕・触腕が発達し、捕食や生殖に利用 される。 (4) 体の背腹方向の走る筋肉は 2または 3対で ある。 (5) 一般には「カラストンビ」と呼ばれる顎板が発達する。 (6) 食道の内部構造が単純化している。 (7) 胃には著しく長い盲嚢が付属する。 (8) 墨汁嚢をもち、墨を吐く (オウムガイを除く) 。 (9) 循環系が発達し、閉鎖血管系に近い。 (10) 高度に発達した眼をもつ。 (11) 生殖器官に特別な付属構造 (卵包腺、ニーダム嚢) をもつ。 (12) 精子は精包に入れて雌に渡される。 (13)卵には卵黄が多く、幼生の段階を経ずに直接発生をする。

 頭足類はすべて海産種である。遊泳能力の高い種が多い。外洋域から沿岸域まであらゆる海域に生息し、深度分布も表層、中層に生息するものから、底生、近底生のものまで様々である。食性は肉食で、魚類や甲殻類などを捕えて食べるものが多い。

 現生の頭足類は、 2つの亜綱、オウムガイ亜綱 (Subclass Naudioidea) と鞘形亜綱 (Subclass Coleoidea) に分類 されている ( 図 11) 。ただし、過去には、異なる分類体系も提唱されている。

 頭足類は化石記録が豊富であり、絶滅したグループ も多い。そのため、化石種を含む分類体系は、現生種 しか考慮しない分類よりも、はるかに複雑になる。 例えば、最も有名なTeichert(1988) の分類体系によ れば、 (1) オーソセラス亜綱 (Subclass Orthoceratoidea) ( カンプリア紀 〜三畳紀 ) 、 (2) アクチノセラス亜網 (Subclass Actinoceratoidea)( オルドピス紀〜石炭紀 )、 (3) エンドセラス亜綱 (Subclass Endoceratoidea)( オ ルドビス紀〜シルル紀 )、 (4) オウムガイ亜網 (Subclass Nautiloidea)( オルドピス紀〜現世 )、 (5) アンモナイト亜網 (Subclass Ammonoidea)( シルル紀後期〜白亜 紀) 、 (6) 鞘形亜綱 (Subclass Coleoidea) ( デボン紀 〜現世) の 6亜綱が提唱されている。この6亜綱には合計で 32の目が提唱されて いるが、そのうち 27目は絶滅している分類群である。このことから頭足類は現在よりも過去に繁栄した分類群であることが分かる。化石種の系統分類については棚部 (1998) 、アンモナイト類については重田 (2001) に詳しく解説されている。

 アンモナイト類 (図 12) は、殻の形と構造は現生のオウムガイ類 (図 13) に似ている。 一般的には、両者は (1) 縫合線の複雑さ、 (2) 隔壁の湾曲の向き、 (3) 隔壁 を貫く連室細管が腹側にあるか背側にあるか、の3点で識別できることが多い。しかし、これらの識別点は(1) を除いて万能ではなく、いくつかの例外があることが知られている ( 重田 ,2001) 。

 

 一方、アンモナイト類とオウムガイ類は、胚殻の形態と歯舌の本数で確実に区別される。アン モナイト類は、 (1)胚殻が小型である。 (2) 最初に形成される殻は球状 の初期室 (initial chamber) からなる。 (3) 体管の先端(盲管 ) から原体管が伸びて初期室の壁内面に接合する。 (4) 歯舌が 7本である、の 4点でオウムガイ亜綱とは明瞭 に区別され、鞘形類 (Coleoidea) に近縁である( 棚部 , 1998) 。そのため、オウムガイ亜綱とそれ以外の頭足類を区別して、後者を新頭足類 (Neocephalopoda) と呼ぶ。

 現生の鞘形亜網は、コウモリダコ目、八腕形目、コウイカ目、ツツイカ目の 2目に分類されている。コウモリダコ目 + 八腕形目、コウイカ目 + ツツイカ目がそれぞれ近縁で、八腕形類 (Octopodiformes) と十腕形類 (Decapodiformes) にまとめられる (Young et al.,1998;Young and Vecctlione,1996)(Sweeney and Roper,1998 の分類体系とは若干異なる) 。

 近年の系統解析では (Carlini et al., 2000) 、八腕形類、十腕形類、十腕目、無触毛亜目、閉眼亜目の単系統性が確認されている。そして、コウモリダコと八腕形目は姉妹群である点も支持されている。一方で、ツツイカ目、コウイカ目、開眼目の単系統性は支持されていない。

 

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