■ここでいう「クマ祀り」とは オホーツク文化の竪穴住居社内に見られる祭壇としての骨塚には、多くの場合、クマの頭骨その他を祀ってあることで有名である。それは、他の時代の竪穴には決して見られない特別な習慣であり、それがクマの霊魂(あるいは霊的存在)を天の世界に送り返す儀礼と結びつき、さらに、後のアイヌ社会に普遍的な動物の「送り儀礼」(オプニレ=opunire送り届ける。ホプニレ=hopunire〜を起き上がらせる。"山で捕った動物"を神の国に送る)、そして究極的には、飼育した仔グマやシマフクロウを送る狭義のイオマンテ(iomante=物・それを送る)に継承されていく動物儀礼であるとしばしば指摘されているのである。 ■仔グマ飼育型クマ送りはいつから 広く北部ユーラシアから北アメリカに至る北方地域における北方諸族の問では、山猟でクマをしとめた場合にその場で解体し、頭骨をはじめとする骨をその場で天の世界に送り返す儀礼を行っている。これは「オプニレ型」と呼ばれる動物儀礼である。これに対して「オマンテ型」とされる儀礼は「仔グマ飼育型クマ送り」を指し、きわめて特殊なもので厳格な規律の中で行われる最高のスタイルの儀礼とされる。 ■動物の送り儀礼の条件と動物意匠遺物 ではここで、動物を「送る」という儀礼行為をどのようにして認定していったらよいのかを考えてみたい。佐藤孝雄(一九九三b)によると、縄文時代の動物儀礼の認定事項として、(1)配置の痕跡が認められること。(2)特定の部位骨だけが集中的に検出されること。(3)とくに頭骨などに非実利的と思われる加工痕が認められること。(4)意図的に焼いた痕跡があること。(5)何らかの施設に安置・収納されていること。(6)祭祀用具と考えられる何らかの遺物と共伴していること、が挙げられ、一つもしくは複数の事項が認められた時に動物儀礼の痕跡である可能性が主張されるとしている。また、西本豊弘(一九九六)の場合は、(1)頭蓋骨があること。(2)特定の部位が複数まとまって出土すること。(3)配列されていること。(4)遺構を伴うこと(配石や溝、壇など)。(5)骨に加工があること(穿孔、焼骨など)。これらの条件の二つ以上が認められれば、動物儀礼の可能性があるとしている。高橋理(一九九七)が設定した動物の「送り」は、(1)限定された種類の集中。(2)限定された部位が高い完形率を保って配置される、あるいはそれをうかがわせる。(3)「送られた」と判断できる「物」との共伴。(4)他とは区別される空間における存在。(5)伝承、文献、地名にあとづけられるもの、などの要素あるいは要素の組み合わせがその基準となっているとしている。 ■なぜそのような送りをしたのか では、なぜそのような動物送り儀礼を行ったのであろうか。アイヌ社会のことを考えてみよう。 |
前頁へ | 表紙に戻る | 次頁へ |