25 郵趣マニアを欺くフェイク





 流通切手の価格はそう高くないため、苦労して偽造しても、割に合わないということなのだろう。そこで稀少な切手が狙われることになる。展示されている初期彫刻切手のフェイクは、本来海外への記念品として販売されていた土産物が、時代を経るうちに旧い切手の贋物に転じた例である。また、使用済み封書など郵便物コレクター向けに、真正の切手、封筒、消印を使って、ありもしない「封書の実例」が捏造されることもある。稀少であることが収集対象の価値のすべてを決するコレクターの世界では、偽造者と蒐集家との知恵比べが行われている。


25-1 明治初期手彫切手十六点(偽造・変造)
紙にコロタイプ印刷、日本製、内藤コレクション

 海外の収集家目当てに作られたもの。


25-2 郵便物
紙、縦17.0、横8.6、香港、昭和17年6月3日消印、内藤コレクション

 日本軍占領下の香港で配達された「日本郵便物」。稀少なもの、すなわちコレクターズ・アイテムである。

25-3 偽造郵便物
紙、縦9.5、横11.8、日本製ないし香港製、1950年代、内藤コレクション

 第二次世界大戦中の香港における日本切手の使用例の偽造品。切手、消印、封筒、どれも真正品が用いられていることから、構成要素に還元するとすべてホンモノ。しかし、全体としては不自然な捏造物以外の何物でもない。なぜなら、切手は消印の日付より後に発行されたものだからである。収集家の世界ではよく知られた贋作である。



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