23 複製されてはじめて「ホンモノ」となる





 オリジナルを「ホンモノ」、コピー物を「ニセモノ」とする見方は、一般的な通念のようであるが、しかしこれを見事に裏切る実例が存在する。たとえば、巷に流布するお札がそうである。これは印刷物であるから原版が存在するはずであるが、それはオリジナルではあっても、お札とは言えない。何万枚、何十万枚という単位で、一部の狂いもなくマス複製されたものこそが「真札」なのである。こうした「貨幣経済システム」の上に成り立つ現代の日常的メカニズムの虚をついた「画家A」(赤瀬川)の「模型千円札」は、1965年「通貨及証券模造取締法」違反にあたるとして東京地裁に起訴され、1970年に最高裁で有罪判決を下された。「紙幣は『モナ・リザ』ではない。印刷すればいくらでも『本物』が出来るのだ。複製の本物、本物が複製。これは紙幣が価値の目印である結果だろう」(赤瀬川原平『死産したニセ札』、1969年)。現在の美術マーケットでは「模型千円札」一枚が高値で取り引きされており、市場はそれを歴史的に価値のある美術品として認定している。「ニセ物が本物の横腹をつつきはじめたのは何もいまにはじまったことではない。本物が単なる物であるだけでなく、本物であることを主張するために、ニセ物という物が出現するのであり、原理的にいって、つねにニセ物は本物に対して攻撃的なものであり、本物はそれに対してつねに自分を保守するという守勢にまわる」(同上『「資本主義リアリズム」論』、1964年)。


23-1 赤瀬川原平、大日本零円札発行所「零円札」
紙の両面に活版印刷、縦14.4、横30.8、1969年、個人蔵

23-2 赤瀬川原平、大日本零円札発行所「零円札」の郵送に使われた封筒と添書き
紙に印刷と手書き、縦19.6、横11.9、1969年、個人蔵

23-3 赤瀬川原平、「千円札」模型4点
紙の両面に活版印刷、縦7.5、横16.1、1963年、白石コンテンポラリーアート・コレクション

23-4 「千円札」(真札)
縦7.5、横16.1、個人蔵



前頁へ   |   表紙に戻る   |   次頁へ