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[かわら版の情報社会]


横浜にて応接の図(仮) 嘉永七年(一八五四)

(『あさぶくろ』)
東京大学史料編纂所蔵
幕府からペリー一行への贈答品が記されている。横浜での交渉場面を描く。中央でひざまずく人物がペリー提督。向かい合わせで描かれた武士像は、幡や陣幕の紋は力の象徴であった源為朝を連想させ、武士にひざまずくペリーの姿は、日本の武威に従う異国という対外認識を示している。

図89 横浜にて応接の図(仮)
図89

横浜にて応接の図(仮)

世界六大州ノ内
北あめりか州ハ
日本の東に当りて
海上五千里ヨと云
開闢より千八百五十
四年独立建国して
七十七年に相成
日本嘉永六年六月
合衆国の王「ふりし
てんとくの
命を請けて
官差大臣提督まつちうせへるり
と云書簡を持相州浦
賀表へ渡来す又御願
筋の義ニ付同七年正月
十七日浦賀表へ来る同
二十二日対顔ニおよふ左之
とふり
一机       一料紙硯
一花入      一火鉢
 広蓋      一置物
一吸物椀六百人前 一羽二重二十疋
一紋縮緬五疋   一板メ縮緬五疋
一大根 八百本  一にんじん五百本
一ねき 七十把  一菜四百把
一蜜柑 七箱   一鶉五十羽
一玉子 千    一上菓子六箱
一鶏  三百羽  一米二百俵但し五斗入
使節へ
一羽二重五疋   一板メ三疋
一紋縮緬二疋
船将九人へ
一羽二重三疋ツ  一板メ二疋ツツ
通弁官へ
一板メ三疋ツツ●下方民之悦
一右之品々二月二十二日於浦賀表
天下大平之御代而是被下●

 

献上之品物亜墨利加蒸気車 嘉永7年(一八五四)(『幕末読売雑集』)

東京大学史料編纂所蔵
ペリーと幕府の間では、相手より高価なものを贈る事で自国の優位を示そうと、様々な贈り物の交換がされた。ペリーは、電信機やフランス製の蒸気機関車の模型などを贈って西洋文明の技術を示そうとした。蒸気機関車の模型は実際には人が中に入れない程小さかったが、かわら版では人を乗せて大きく描かれている。客車には遊山屋形船と書かれている。

図90 献上之品物亜墨利加蒸気車
図90

献上之品物亜墨利加蒸気車

アメリカ合衆国ヨリ
大日本国へ献上貢物品々
一蒸気車一そろい
一同せんマツテイラ二艘
一鳥かこ台■一ツ
一合衆国絵図面一さつ
一同海岸絵図前同
一らしや一まき
一びろふど一反
一百里見遠眼かね一本
一香水類一箱
一名酒一瓶
一食物類一かこ
一国産之茶三箱
一書籍十六冊
一火鉢一ツ
一道中羽袋二ツ
一錦かさり五ツ
一姿見大かがみ一面
一石摺の絵いろいろ
一馬上太刀十二振
一剣付鉄砲三挺
一きりんび三十畳敷一持
一六てふ仕掛たんづつ一ツ
一鏡台之類一式
一はな■の織物色々
北アメリカ合衆国共和政治ワシン
トンノ府王名伯理爾天徳ヨリ
マツチウセヘルリアワタムツ両人ヲ
モツテ日本国へ献上ス

 

阿女里香通人

「阿女里香」とは「アメリカ」。アメリカの言葉を日本語と対応させて紹介する。ペリー来航についてのかわら版に求められたのは交渉の経過やペリー艦隊に関する情報だけではない。踊る異国風人物や蒸気船をかたどった煙草盆、呪文のような言葉には、異国風情を楽しむ姿勢がうかがえる。下に記されたアメリカの言葉はどれも英語とは程遠いが、日本語との違いで異国らしさを感じさせる。

図91 阿女里香通人
図91

阿女里香通人

○きんぱきんばさんちよろ
かむなんほう
とくりいつ
ちゆヲとろ
あるほろめ
んそゆんる
てきふくかん
たん○コウコウハア
紀於呂香譚
めでたいことをきんぱ
うれしい事をさんちよう
かなしい事をめいそ
きんきんをえきゆるちん
てつぽうをろんどう
いくさをしゆゆう
ふねをかつと
けんくハをこうろまん
たばこをぱん
きせるをぱんつう
茶の事をうづい
さけをたらあか
とくりをとんき
米の事をてんとう
さかなをあかつふ
なまよいをとろんこ
水の事をじやむ
油をきんぷ
きものをしんひ
ふんどしをふくかんぴ
きん玉をふくりん
ぼうづをぐつうに
どうらく者をとろんぽ
りこうをすでい
ばかものをぱあ
ねる事をへゑする
日がくれるをとつぷ
てておやをあちやさん
ははおやをかあとる
ていしゆをくろどや
女ほうをによりん
子どもをちやあ
よき男をゑんやろ
いろをするをへめゑる
ちんほこをほうひじ
おまんこをぺろんす

当世流行とふ化狂歌(『あさぶくろ』)

東京大学史料編纂所蔵
一首目は、「泰平の眠りを覚ます上喜撰たつた四杯で夜も寝られず」が変形したもの。五首目にも蒸気船と上喜撰の掛詩がみえる。二首目は、「おそない」に御供え餅と海岸防備の「おそなえ(御備え)」を掛けている。三首目は、泰平の世に馴れた武士を「なまけた」と表現する。掛詩を楽しむ狂歌や百人一首をもじったものなど、技巧をこらしたものが多く作られた。

図92 当世流行とふ化狂歌(『あさぶくろ』)
図92

当世流行とふ化狂歌

毛唐人なそとちやにして上きせん
 たつた四はいてよるもねられぬ
あめりかのこめのねかひをもちにつき
 おそないはかりたんとてきます
なかき御代なまけたぶしのみなみさめ
 たしなみあるハここちよきかな
七よふの星にもまけぬ九よふせい
 ぢやのめとをなじひこのくまもと
日本をちやにしてきたが上きせん
 水かあらくてむまくのめない
江戸まちの女唐人できたゆへ
 あめりか人もやたらきたかる

 

鎖文字(仮)(『あさぶくろ』)

東京大学史料編纂所蔵

やぼたいし(仮)

漢字を使った言葉遊び、「野保台詩(やぼたいし)」。出来事を様々な面から捉える姿勢がうかがえる。興味深いのは中央の字には「船、国、家、人、中」が選択され、日本と異国の国家間レベルでの力関係から、身近な世相までが対象となっている。このかわら版の買い手自身となる町人や武士の辛さなどにも目を向けている。

*野保台詩について

古代の予言詩「野(耶)馬台詩」の形式をヒントに作られた。「野保台詩」は「野暮ったい」を掛けている。
縦に三文字、横に三行の合計九つの漢字で一つのまとまり。中央の文字を重復して縦横斜めに読む。

図93 やぼたいし(仮)
図93
図94 やぼたいし(仮)
図94

鎖文字(仮)

唐船来(とをせんきたり)通船無(つうせんなし)
使船止(しせんとどむ)漁船窮(きよせんきわむ)
西方穏(さいぼうおだやか)東方勇(とうぼういさむ)
八方固(はつぼうかため)官方難(かんぼうかたし)
町人悲(まちじんかなしむ)役人囗市(やくじんさハがし)
唐人眠(とうじんねむる)萬人惆(ばんじんなやむ)

諸国騒(しよこくさわく)異国強(いこくつよし)
隣国驚(りんこくをどろく)自国愁(じこくうれい)
家中働(かちうはたらく)寒中苦(かんちうくるしむ)
日中勤(にちちうつとめ)夜中悩(やちうなやミ)
諸家備(しよかそない)国家為(こくかため)
清家政(せいかまつり)民家嘆(みんかなげき)

やぼたいし(仮)

唐船帰(とうせんかへる)役船止(やくせんとまる)
廻船通(くわいせんかよふ)漁船勇(りやうせんいさむ)
職人惆(しよくにんなやむ)芸人表(げいにんあハれ)
士人囗市(しにんいそがし)町人苦(ちやうにんくるしむ)
諸国固(しよこくかため)異国弱(いこくよわる)
神国勢(しんこくいきおひ)万国恐(ばんこくおそれ)

芝家飢(しばやききん)娼家塞(じゆうろやふさぐ)
質屋痩(しちややせる)大家慎(おおやつつしむ)
諸家備(しよかそなへ)国家為(こくかため)
清家政(せいかまつりこと)民家悦(ミんかよろこぶ)
城中侍(じやうちうさむらい)日中勤(につちうつとめ)
心中痛(しんちういため)夜中休(やちうやすむ)

 

 


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