緒言 |
研究は、その内容的発展の必然的な帰結として越境せざるを得ない。百二十年前に東京大学が創立されて以来、東京大学人は、日本人のアイデンティティを求めて、また日本に生息する動植物の源流を求めて、近隣の諸国へ調査に踏みだした。このような研究の越境は明治以来、脈々と現在に受け継がれている。 南西諸島から台湾、フィリピンへと南の海上ルートをさかのぼると同時に、朝鮮半島から中国大陸への主流を訪ねながら、確かに私たちは異民族、異文化、異なる自然環境への熱いまなざしの中から、多くのことを学んできた。そしてそれは東京大学に所蔵される膨大な数と量の標本(モノ)として結実している。 しかしながら、私たちの研究の越境は、単に日本から世界を観るという一面的なものに終わることはなかった。戦後に実施された海外調査の多くは、アジア地域にとどまることなく、中近東や中南米へと飛躍し、世界から日本を観る視点を確立してきた。 本年に実施される東京大学創立百二十周年記念展において、総合研究博物館に公開展示される標本は、このような研究の拡がりのまぎれもない証拠の数々であり、そこから私たちは先人たちが味わった発見の歓喜と興奮を再び味わうことができるにちがいない。このような展示を可能とした人々の努力に対し、心から謝意を表したい。 一九九七年十月
総合研究博物館長
林 良博
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