|
29 古活字本『太平記』(二十一冊、三冊歓)
慶長一五(一六一〇)年
冊子装本
縦二八・四cm、横二〇・五cm
史料編纂所蔵(0178-1-1/18)
|
『大平記』は、日本の南北朝時代を描いた全四十巻の軍記物語。国文学書のなかで最も早く開版され、多く重版されている。
本書は、慶長一五(一六一〇)年、春枝により刊行された漢字片仮名交り活字の印刷本。春枝という人物については、この他に『四盤千字文」(慶長一一年)を出版している以上のことは明らかでない。版面の高さは約二三・三センチ。一行当たりの字数は、二十一字や二十六字など一定でない。片面十二行取りで、版面の匡郭線の四隅に透き間がある。随所に朱筆で校合の手や墨書の振仮名が加えられ、本書を用いた先人の営みを伝えている。
「斎」の蔵書印から本書はかつて、江戸時代後期の考証学者狩谷斎(一七七五−一八三五)の蔵書であったことが知られる。斎は江戸下谷池之端の書肆青裳堂に生まれ、湯島の米問屋津軽屋(狩谷)三右衛門の養子となった。養家は陸奥津軽藩の御用達商人であった。国学者屋代弘賢や漢字者市野迷庵に師事して学問を修め、律令研究や日本の古代史料の考証・註釈・校訂に業績を残した。江戸幕府の書物奉行近藤守重(重蔵)とも親交を結んだ。生前、「富家なり。蔵書二萬巻これ有り候」と称され(『楓軒年録』文化一四年四月二〇日条)、書物の蒐集に努めて一代で青裳文庫を築いた。
蔵書は彼の死後、売却され散逸した。「福田文庫」の印はその後のもので、福田敬同のものとする説と幕府味噌御用福田敬園とする両説がある。やがて本学の史料編纂所の書庫に入り、現在に至っている。
(山口和夫)
【参考・参照文献】
梅谷文夫、一九九四、『狩谷斎』、人物叢書新装版、吉川弘文館
岡村敬二、一九九六、『江戸の蔵書家たち』、講談社選書メチエ
川瀬一馬、一九六七、『増補古活字版之研究』上・中・下、A・B・A・J
丸山季夫、一九六九、「人と蔵書印(四七)福田敬同印」『国立国会図書館月報』九九
中野三敏、一九八六、『日本書誌学大系四一(二)近代蔵書印譜 二編』、青裳堂書店
森銑三、「狩谷斎雑記」『書誌学』四巻六号(斎百年忌特輯号)、日本書誌学会(一九三五年初出、『森銑三著作集』七、中央公論社、一九七一年所収)
|
|