はじめに

考古美術(西アジア)部門所蔵考古学資料の目録は、これまで8冊刊行されている。いずれも、かつての東京大学イラク・イラン遺跡調査団が1950年代から1970年代にかけて西アジア各地で得た標本資料を目録化したものである。西アジア諸遺跡で表面採集された土器片・石器等(第1、3、4部)、各地で購入された金属器(第2部)、さらには発掘された土器標本(第5-7部)、踏査時に撮影された遺跡写真(第8部)がまとめられている。今回は、同調査団が1956年から1965年にかけて現地で購入したり表面採集したりした標本のうち、完形に近い土器類を集成することとした。また、この機会に、先述の目録刊行後に整理が進んだ若干の発掘土器標本もあわせて掲載した。

東京大学イラク・イラン遺跡調査団はイラク・イラン両国でいくつかも遺跡発掘を手がけるかたわら、西アジア各地で広範な踏査、標本収集をくりひろげた。踏査、標本収集は、同調査団が本邦初の本格的西アジア学術調査団であったことにかんがみ、可能な限りの一次標本を招来して日本の西アジア考古学の進展に寄与したいという、団長であった江上波夫本学名誉教授の意向に沿って実施されたものである。各地の遺跡で表面採集がなされたのはもちろん、規制が緩やかであった1950、60年代には現地の骨董市場で大量の考古美術標本が購入された。

今回目録化した土器標本は大半が1960年前後に現地市場や遺跡踏査によって入手されたものである。出所情報が限られるものが多いとはいえ、反面、マーケットに現れる標本ならではの高い美術的価値を有する作品が多数をなしている。公開展示や教育、研究用参照標本として大いに活用可能な土器群であり、この目録化を機に積極的な利用がすすむことを期待したい。

標本の選定や時期判別、記載は有松唯がおこない、洗浄・注記、計測、記録との照合等には三國博子と小川やよいがあたった。西秋はそれらの作業を統括し巻頭の原稿を有松と分担して執筆したほか、編集を担当した。標本の時期鑑定にご協力くださった中近東文化センター岡野智彦、足立拓朗両研究員、編集段階で助力いただいた日本学術振興会特別研究員門脇誠二氏に御礼申し上げたい。標本写真は上野則宏氏が撮影したものである。また、いつもながら、地道な作業に御援助いただいた考古美術部門主任平■■郎教授、半世紀近く前の調査事情等につき情報提供くださった松谷敏雄本学名誉教授にも御礼申し上げる次第である。

なお、本目録は平成18-20年度当館プロジェクト経費「西アジア産土器標本のデータベース化」(代表・西秋良宏)による成果の一部である。


 東京大学総合研究博物館
西秋良宏