テル・サラサート遺跡出土の土器標本

1.標本の入手経緯

テル・サラサート遺跡群はモースルの西方約60kmにある  (Figs. 1、2)。 この遺跡 の発掘は、1956、1957、1964、1965、1976年の5次にわたって本学東洋文化研究所を中心とした調査団によっておこなわれた。各年次に調査されたテルは次のとおりである。

1956-1957年:2号丘発掘、1、3号丘試掘

1964年:2号丘発掘

1965年:1号丘、5号丘発掘

1976年:1号丘、2号丘発掘

1956、1957年の調査は別のシーズンとされているが (それぞれ第1、2次)、同 一調査隊が現地滞在中に雨季をはさんで実施したものであり、まとめて報告されているため本書でも区別しない場合がある。

また1965年の調査は1966年1月まで継続されたが、関係者の間では1965年調査として扱われている (第4次)。

本学が収蔵するのは1956、1957、1964、1965年調査時にイラク当局から分与された標本群である。本カタログでは、このうち、1、2、5号丘の出土品を公開する。それらは次の二種からなる。

第一は、イラク当局に登録した標本 (registered objects) の一部である。出土品のうち完全ないしほぼ完全な形状をとどめた標本は全て現地で登録され、イラク国の文化財台帳に掲載された。それらは1956-1957年が516点 (Th.1-516)、1964年が323点 (3ThII.517-839)、1965年が191点 (4ThV.1-137、4ThI.1-54)に達している。これらのうちユニークな標本はバグダード博物館に保管されたが、類似した標本が二点以上含まれていた場合には、その一部が東京大学へ分与されている。

第二のグループは、公式登録されなかった破片類の大半である。膨大な量にのぼる破片類は全て調査団に持ち帰りが許可された。破片といえども、以後の修復作業を経て、完形に準じる形態にまで復元されたものが少なくない。本カタログには、そのような標本も収載している。


2.標本の掲載

本書には個々の標本につき、以下の項目を記載した。

(1)図版番号(Plate)本書の図版番号。
(2)標本番号
(Specimen No.)
今回の作業にあたって新たに割り当てた個体番号。
(3)現地登録番号
(Iraq Registration No.)
イラク当局に登録した番号。
一部優品のみがこの番号をもつ。
(4)採集番号
(Field No.)
発掘者が遺跡で割り当てた採集番号。
(5)品名
(Description)
今回は土器の分類名。
(6)
(Country)
今回は全てイラク。
(7)遺跡
(Site)
今回はテル・サラサート1、2、5号丘のいずれか。
(8)発掘年
(season)
調査年。
(9)出土地区
(Provenance)
報告書で採用された地区割り。
(10)出土層位
(Level)
1号丘はI-III層、2号丘はI-XVI層、5号丘はI-IV層にわけて発掘されている。
今回の作業でもっとも困難だったのは、各標本の出土層位をつきとめることである。標本の層位対照が完了していたのは1964年調査のII号丘出土品のみであって、それ以外の標本の多くは今回の整理にあたって出土層位確認が必要となった。その作業のてがかりになったのは、本館に残されている発掘記録類、土層断面図、関係者への聞き取りデータなどである。発掘当事者でない筆者にとって完全な層位復元は不可能であったが、記録の乏しい層は複数をまとめるなどして、おおよその照合をおこなった。
(11)時期
(Period)
様式学的にみた標本の時期。
撹乱等がみられるため、これは必ずしも層位の年代と一致しない。Fig. 3 には各丘の層位とおおよその時期判定の結果を示している。矢印は存在が予想されるが明確な文化層が見あたらなかった、もしくは発掘されなかった時期を示す。
時期の呼称は現今のメソポタミア先史学で一般的な区分法を採用した。したがって、報告書刊行当時とは若干異なっている場合がある。たとえば、報告書では2号丘のI-V層をウルク期、VI-VIIa層をウバイド末期としているが、本書ではいずれもガウラ期に判定している。また、1号丘のI-III層はミタンニ文化に比定されていたが、ここでは古アッシリア期にあてている。
(12)報告写真
(Published Photo)
報告書に掲載されている標本の写真番号。
本書でいう報告書とは『テル・サラサートI (Telul eth-Thalathat Vol. I)』(江上波夫編、1959)、『テル・サラサートII (Telul eth-Thalathat Vol. II)』(深井晋司・堀内清治・松谷敏雄編、1970)、『テル・サラサートIII (Telul eth-Thalathat Vol. III)』(深井晋司・堀内清治・松谷敏雄編、1974) の3冊であり、いずれも本学東洋文化研究所から出版されている。
(13)報告図版
(Published Fig.)
報告書に掲載されている標本の図版番号。
(14)サイズ(Size)最大高と最大径を0.1cm 単位で計測。
一部標本のサイズは報告書にも記載されているが、計測し直した。接合修復作業によって報告時とはサイズに変化が生じていること、報告書で土器の開口部の直径 (口径) が計測されたが展示公開には最大径を記すほうが有効であること、などのためである。
(15)備考(Notes)そのほか参考事項。



Fig.1


Fig.2

Fig.3
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