はじめに

本標本資料目録シリーズにおいて、『小堀巌教授旧蔵沙漠誌コレクション目録』の刊行を続けてきたが、今回の第3部刊行をもってひとまずの区切りとなる。第1部で考古民族資料(2017年)、第2部で自然地理資料(2018年)を扱ったのに引きつづき、第3部には小堀巌教授(1924–2010)が残された野帳や写真、関係書類などアーカイブ類を収めた。あわせて、第2部関係資料の残部を補遺として収録した。どれも、1956年に初めてイラク・イラン遺跡調査に参加されて以降、小堀巌教授が生涯をかけて続けられた乾燥地調査の地理学的証拠資料である。今、それらが地理学資料だと述べたが、それは、小堀教授が本学理学部地理学教室に長く籍を置かれ、また、総合研究博物館の前身、総合研究資料館地理部門の主任をつとめられたことに基づくものである。教授の研究業績に照らして、本コレクションが乾燥地地理学において大きな貢献をなしたことは明らかであるが、編者らの目からみて自然史とも文化史とも判断しかねるその多様性は、コレクションがもつさらに広い潜在的な学術的価値を示唆しているように思う。

既に一部の標本、世界の乾燥地で収集された砂コレクションは総合研究博物館インターメディアテク、水コレクションや考古民族資料は本郷本館UMUTオープンラボにおいて常設展示に活用しているところである。各地の砂や水、香辛料や歯磨き枝を集めて東京大学が保管することにどんな意味があるのか、展示物を前に、その学術的意義を学生たちと議論すると彼らの目が輝くのがわかる。尽きない議論は編者らの喜びであり続けている。学術の原点とも言うべき知的好奇心を具現化した小堀コレクションは、向後、様々な発想、研究計画を喚起していくものと信じてやまない。

小堀コレクションの整理は2012年に関係資料が本館に集結されて以来、10年をかけておこなったことになる。その間、整理作業には実に多くの関係者のご助力を得た。第1部、2部にかかげた関係者のお名前は重ねないが、今回の第3部の作成にあっては次の各位に深甚の謝意を表する次第である。総合研究博物館地理部門主任茅根創教授、理学系研究科地球惑星科学専攻栗栖晋二技術専門員には変わらぬご協力をいただいた。また、標本の写真撮影には上野則宏(上野写真事務所)、野久保雅嗣(東京大学東洋文化研究所)両氏のご尽力を得た。さらに、データ整理においては、高橋素美鈴(東海大学)、池山史華(早稲田大学)の協力を得た(所属はいずれも当時)。

また、標本の出所や名称鑑定、さらに文書資料を扱う本巻においてはアラビア語解読など、前二巻と同様ないしそれ以上に識者の専門的知見を頼ることとなった。とりわけ、下釜和也(古代オリエント博物館)、鶴見英成(総合研究博物館)、サリ・ジャンモ(総合研究博物館)、矢口まゆみ(総合研究博物館)、𠮷竹めぐみ氏らには貴重なご教示をいただいた。記して厚く御礼申しあげるものである。


 東京大学総合研究博物館
西秋良宏

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