東京大学総合研究博物館長

林 良博

 1922年12月29日。
日本各地での講演活動を終えて帰国の途に着いたアインシュタインは、甲板から遠ざかっていく日本を見つめながら、こみあげる涙を抑え切れなかったという。おそらくそれは、物理学を志すもの以外には到底理解できない彼の理論を、なんとかして理解しようとする日本人の真摯な態度に感動しただけでなく、アインシュタイン自身の言葉を借りるならば「もの静かで知的で芸術を愛する日本人が、独自の文化を忘れないように」という願いがこめられた涙であったと思われる。

日本人が、アインシュタインが願ったように、独自の文化を堅持し発展させているは別に検証の要があるだろう。しかし彼が感動した日本人の真摯な科学的探究心は、その後の東京大学の研究活動において見事に開花し結実した。

今回の特別展示は、アインシュタインの「相対性理論」、「光量子仮説」、「ブラウン運動」が、いかに東京大学において発展させられ、新たな理論が生み出されたのかを、展示という手法によって明らかにしようという試みである。この展示をご覧頂いた方々が、物理学の真髄に触れたという実感だけでなく、アインシュタインが願った日本的なるものを感じ取って頂けたとすれば、本展示を企画したもの一同にとって、これ以上の喜びはない。


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