直立二足歩行のために難産になってしまったの?



 直立二足歩行と関連して骨盤が上下に短くなったとき、産道が小さくなりました。アウストラロピテクスにおける難産の程度は、チンパンジー大の新生児の頭を想定して推定されていますが、「余裕」はなく、ぎりぎりの状態だったと考えられています。ですが、アウストラロピテクスでは大人の脳容量が400ccから500ccぐらいですので、現代人に至るまでに脳の大きさは3倍から4倍に拡大したのです。アウストラロピテクスですら産道の大きさに余裕がなかったのならば、これは大問題であることが容易に想像できます。
 進化とはすばらしいもので、この難題に果敢に挑戦し、見事な解決口をみいだしたようです。一つには、産道の拡大を様々に工夫しています。現代人では、猿人と比べ、産道が前後方向に大きくなっています。なぜならば、骨盤をあまり横に広げると歩行時のバランスが悪くなるからです。さらに、性差により、女性では産道が特に大きくなっています。現代人の恥骨と坐骨にみられる性差は霊長類の中でも極だっています。また、多くの動物では恥骨結合部が高齢と共に癒合しますが、現代人ではその成長が30歳ぐらいまで続きます。

恥骨の成長のこの遅滞のため、高齢でも恥骨結合が癒合することがありません。これも出産時に靭帯を緩ませて、一時的に産道を拡大することを可能にする、進化の知恵です。興味深いことに、猿人のルーシーは、歯から判断するとまだ成人して間もない若年ですが、恥骨結合は完全に成長しきっており、現代人のような恥骨の成長の遅延がみられません。
 ただし、新生児の頭が猿人の時の3、4倍の大きさならば、産道の拡大だけでは到底対応できません。そこで解決策として、脳の発育が通常より未熟な早期に出産してしまう方式にたどり着いたようです。「通常」とは、例えば他の霊長類ですと、新生児の脳の大きさが大人の半分程度ですが、現代人では四分の一程度です。そして生後1年間くらい、胎児期と同様に早い脳の成長速度が維持されます。人間の新生児が「未熟」であることの一つの進化的な説明です。また、人間のあかちゃんが脂肪たっぷりで生まれてくるのも、生後にまでつづく脳の急成長率を維持するためのサポート(栄養の供給)と考えられています。