道具の使用と手の進化は?



 直立二足歩行によって上肢が自由になり、道具の使用が促進されたのでしょうか?オロリンとカダバの発見により、500万から600万年前ごろまでに、すでに直立二足歩行が行われていたことがわかっています。一方、打製石器の使用という特異な行動は、250万年前ごろに初めてみられます。これらの石器は鋭い刃をもつもので、切る道具として機能したはずです。さて、チンパンジーは、打製石器は作れないものの、ナッツを割るために石のハンマーを使うことがよく知られています。そこで、打製石器が出現する250万年前以前の化石産地の調査でも、従来以上にハンマーとして使われた石の存在に目を光らせるようになりました。ですが、今のところ確認されていません。  そうしますと、直立二足歩行が出現してから、場合によっては400万年ちかい歳月がたって初めて、打製石器の使用という独特の道具使用行動に至ったことになります。石器以外の道具使用については想像するしかないのですが、ひとつの可能性として、250万年前ごろにブレイクスルーがあり、それ以後に道具使用行動が飛躍的に促進されていったのかもしれません。

実際、200万年前以後になりますと、打製石器の種類と様式、そしてそれらから類推される行動様式が、複雑になってゆくようです。ホモ属の進化の一環としてのできごとです。  さて、手との関わりですが、カダバやオロリンの手の化石がよく知られていないため、多くを語ることはできません。300万から350万年前の猿人の手は、類人猿の手とちがい、親指と他の指との長さのバランスが良く、例えばチンパンジーよりは器用に細かいものを摘んだり、親指をあてがってものを握ったりできたはずです。しかし、これはニホンザルなどオナガザル類の多くでも同じことですので、そもそも共通祖先から受け継いだだけかもしれません。興味深いのは、300万から350万年前の猿人の親指は華奢で、ホモ属の太く大きい親指とはことなることです。ホモ属の手は、他の骨にもアウストラロピテクスとの相違点があり、おそらく打製石器の作製と使用において、力と正確さの双方が要求されたためと考えられます。