第2部 展示解説 植物界

自然の体系−植物界
Regnum Vegitabile

 

分子系統分類学と
被子植物の系統関係

 植物の系統を細胞核や葉緑体内の DNA の塩基配列の分析から追跡する研究が 1980年代からはじまった。 この方法による系統解析では、ある特定の遺伝子 ( リボソーム RNA、光合成で働く酵素ルピスコなど) や遺伝子間配列に注目し、DNA の塩基配列を近縁な種間で比較して、進化の過程で塩基の置換がどのように起 きたかを解析し、それによって推測される系統関係を分岐図として提示するのである。 1990 年代以降、この立場からの系統樹が相次いで発表されている。

 被子植物全体をカバーする分子系統樹もいくつか発表 されている( 図 3)。しかし、発表された系統樹聞には一致する部分と相互に相違する部分があるが、分子系統樹と整合性をもつ植物の分類体系をつくろうとするグループが誕生し、現在までに 2度の試案が発表されている。まだ、検討の余地を多く残すが、どの系統樹でも一致している、従来の分類体系との大きな違いを以下に示す。

 

 

単子葉植物は原始的か。

従来から単子葉植物と双子葉植物のどちらが原始的かは被子植物の分類体系を構築するうえでの大きな論争であった。分子系統樹では、単子葉植物は、 ひとつの祖先から生じた単系統群であることが判明 した。被子植物の中でもっとも原始的な植物は、従来双子葉植物の中でも原始的とされたスイレンやシキミの仲間であった。こうした一部の双子葉植物を除くと単子葉植物は被子植物の中でも祖先に近い位置にあるといえる。

・モクレン類は原始的か。

木本性で多数の花被片、雄しべ、雌しべ ( 心皮 ) からなる花をもつモクレン類は化石やその形態などから祖先的とみられていた。分子系統樹でも単子葉植物同様に祖先に近い位置にあることがわかった。

・原始的な被子植物はすべて木本性か。

草本にも起源の古い植物があることがわかった。古草本と呼ばれていた、ウマノスズクサ科やコショウ科がこれに含まれるが、スイレン科、ハゴロモモ科、マツモ科のような水生植物も相対的に古い起源をもつ植物である。

・進化が進んだ植物の特徴は何か。

分子系統樹は被子植物を離弁花類と合弁花類に分類する従来の分類体系が人為的なものであったことを示している。進化の進んだ派生的な被子植物は、真正双子葉植物と呼ばれ、このグループは、三溝性の花粉をもつことがわかった。真正双子葉植物は、 主こ従来の離弁花類に分類されてきたパラ類と主に合弁花類のキク類という 2つの群に大別される。

 

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