第2部 展示解説 動物界

哺乳類の多様性と
標本から読み取ること

 

 

霊長目 :

 霊長目はわれわれヒトを含むサルの仲間である。熱帯を中心におもに樹上生活をし、とくに前肢がものをつかむのに適している。霊長目には果実を食べるものが多いが、木の葉や草の葉、昆虫などを食べるものもいる。歯は食べ物を噛み切る尖った門歯と犬 歯、それにすりつぶす臼歯とがあるために、さまざまな食べ物を利用できる。霊長目は一般に知能が高く、学習能力にすぐれている。他の類人猿とも共通であるが、オランウータンの顔面は平坦で目は両方とも正面を向いている ( 図 52, 図 18 参照 ) 。このためいわゆる顔 ( 顔面 ) と側頭が区別される。これは草食獣や食肉目の目が側方を向いているのと違い、森林で生活するには全体を見るよりも眼前のものを立体視することが必要であることに対応している。これと関連して眼窩輪ががっちりした構造をとり、眼球をしっかりと収納する。 またオランウータンは腕 (前肢 ) が長く、手も大きい。 長い腕は木の枝をつかみながら移動するのに適して いる。親指 (拇指 ) はほかの 4本の指と向かいあい、太いものを正確につかみ、握ることができる。ヒトでは足 ( 後足 ) は拇指対向ではないが、オランウータンなどの類人猿は前肢同様ものをつかむことができる。



 原始的なワオキツネザル Lemur catta (キツネザル科 , 図 53) はマダガスカルに生息するが、この島では大陸とは違った進化がみられ、キツネザル科だけで 10種もの分化をとげた。眼球が正面をむいている点は霊長目に共通の特徴であるが、顔面に毛があり、鼻先が突出し、 湿った鼻鏡があるのでサルらしくない。白黒のストライプのある非常に長い尾が印象的である。同じく原始的なホソロリス Loris tardigradus ( ロリス科 , 図 54) は南アジアの森林に生息し、夜行性で動きはきわめて緩慢である。尾はない。オオガラゴ Ototemur(Galago) crassicaudatus ( ロリス科 , 図 55) も原始的な霊長目で、 アフリカに生息し、肉食である。ロリス科に入れる見解もあるが、動きが非常に敏捷で、長い尾をもつ点などはロリスと対照的である。 メガネザル Tarsius.sp.( メガネザル科 , 図 56) は南アジアの森林に生息する小型 の原猿で、丸い頭、大きな目 ( ニシメガネザル Tarsisus bancanus で、は眼球の重さが脳よりも重いという ) 、細長い尾などが特徴的である。耳介も大きく、鋭い聴覚 と視覚で昆虫をとらえ、鋭く尖った歯で食べる。踵骨 がよく発達しており、これによりジャンプ力が強いので樹聞をすばやく移動できる。

 

 オマキザル科 ( 図 57) は南アメリカの森林にすむ中型の霊長目で、30種がいる。鼻の幅が広い ( 「広鼻猿類」 と呼ばれる ) こと、頬袋をもたないことなどで旧世界ザルと区別される。テナガザル科には 9種があり、東南アジアの森林に生息する。名前のとおり手が長く、左右 の腕を交互に出して腕で枝を渡るブラキエーションとい う方法で森林内を巧みに移動する。ミューラーテナガ ザル Hylobates muelleri ( 図 58) はボルネオに生息し、果実を主食とする。ニホンザル Macaca fuscata 交連骨格標本は地上を歩く姿勢をよく示している ( 図 59A) 。 ニホンザルはオナガザル科の中型のサルで霊長類のな かで最も北に生息する種として知られている。歯は食物を噛み切る門歯と噛み砕く臼歯とで形態に明らかな違いがある (図 59B) 。犬歯はオスでよく発達する ( 図 59C,59D) 。ニホンザルは他の霊長目同様、前半身が直立する傾向があるため、頚部に対して首が下方につ く。そのため頭骨の後頭簡が四足歩行や水中生活する哺乳類よりも下方につく ( 図 60 参照 ) 。この傾向はヒトにおいて最もいちじるしい。ニホンザルはおもに果実を食べるが、季節によっては木の若葉、昆虫、冬には樹皮や冬芽などさまざまなものを食べる。

 

 

 

 

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