第2部 展示解説 動物界

哺乳類の多様性と
標本から読み取ること

 

 

登攀目 :

 登攀目 ( 遠藤・佐々木 ,2001 による新称 ) はツパイ科だけからなる単型目である。東南アジアに分布 し、 6属がある。外見がリスに似ているために齧歯目に分類されたこともあるし、 tree shrew と名付けられ食虫類に分類されたこともある。その後原始的な霊長目であるとされたが、現在ではその認識も改められ独自の進化をとげたグループとみなされている。コモンツパイ Tupaia glis ( 図 38) は、昆虫を食べるため臼歯はするどく尖っている。

皮翼目 :

 ヒヨケザル科はヒヨケザル属だけからなる。 東南アジアにわずかに 2種がいるだけである。体に飛 ぶための皮 ( 飛膜 ) があるのが大きい特徴である。ムササピやモモンガは前肢と後肢のあいだに飛膜があるが、ヒヨケザルでは顎と前肢、尾と後肢にも飛膜がある( 図 8 参照 ) 。この飛膜は長い四肢のおかげで面積が広く( 図 39) 、鋭い指の爪と長い指を利用して、高い樹木から滑空し、別の樹木に飛ぴ移る。ヒヨケザルの門歯は特異な形態をしており先端が櫛状になる。その機能はわかっていないが、食物をしごいて食べるのに適 していると考えられている。


 皮翼目はかつては飛ぶ哺乳類として翼手目に、キツネザルに似ているとして霊長類に、あるいは食虫目に分類されたこともあるが、現在は独立した目とするのが 一般的となっている。ヒヨケザルは形態学的に翼手目と似ていることから、両者は近縁と考えられてきたが、 近年の分子系統学で、ヒヨケザルは霊長目や齧歯目などとひとつのグループをなし、翼手目は奇蹄目、偶蹄目、 鯨目、食肉目などとひとつのグループをなし、2つは遠く隔たったグループであることが明らかになった (Springer et al.,2004) 。

 

翼手目 :

 コウモリの仲間であり、空を飛ぶ点が最大の特徴である。形態的にも特徴があり、前肢が鳥の翼のようにみえるが、これは腕と指のあいだに膜(飛膜 ) があることによる ( 図 6参照 ) 。ムササビ類やヒヨケザルなども「空を飛ぶ」が、これらは滑空するだけで文字どおり羽ばたいて飛ぶ哺乳類は翼手目だけである。飛ぶためには軽量化が必要なため、翼手自の胴体は小さく、骨も華者で、筋肉などの軟組織も最小限となっている。 1974年にタイで発見されたキティブタバナコウモリ Craseonycteris thonglongyai は体重が 1.5g しかない、哺乳類のなかで最小の種である。もっともオオコウモリの仲間には体重が 1.5kg にもなるものがおり、翼を広 干ると 2m にもなってカラスなどよりはよほど大きい。世界に 950 もの種がいる翼手目は哺乳類全体の 4分の1に相当する、齧歯目に次ぐ一大グループである。その食性だけをとりあげても花蜜を吸うもの、花粉を食べるもの、果実を食べるもの、昆虫を食べるもの、魚を食べるもの、 血を吸うものなどさまざまに分化している。飛翔という運動をおこなうため小脳がよく発達しており、また超音波を発してその反射によって定位する、いわゆるエコーロケーションをおこなうためにセンサーである耳介や顔面の一部が特殊化している( 図 40) 。日本には 33種がおり、そのうち 11種は固有種である。オオコウモリにはクピワオオコウモリ Pteropus dasymallus (図 41) 、オキナワオオコウモリ P.loochoensis 、オガサワラオオ コウモリ P.psel aphon の 3種がいる。いずれも果実食であり、鋭い歯で硬い果実をくだくとともに、すりつぶ すのに適した臼歯ももつ。コアラコウモリ科は旧世界の熱帯に広く分布するグループで、体が大きいものが多く、耳介が大きく、すぐれた飛翔能力で、昆虫や小動物を食べる ( 図 42) 。

 

 キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum (キクガシラコウモリ科 , 図 43) は小型のコウモリで飛翔力にすぐれ、名前の由来となっている顔面の複雑な鼻( 鼻葉 ) は鼻から発するエコロケーショ ン・パルスを収束すると考えられている。また耳介が大 きく、これらによって昆虫を巧みにとらえて食べる。集団でねぐらを形成する。カグラコウモリ Hipposideros turpis ( カグラコウモリ科 , 図 44) は南西諸島に分布し、洞窟で大集団を形成する。セパタンピヘラコウモリCarollia perspicillata ( 図 45) はヘラコウモリ科に属すが、 この科は 147種もを擁する大グループである。この中 には特殊な鼻葉をもつものがいる ( 図 40) 。ヒナコウモリ Vespertilio superans ( ヒナコウモリ科 , 図 46) は極東に分布する小型のコウモリで、樹洞などに集団をつ くって生活する。オヒキコウモリ Tadarida insignis ( オヒキコウモリ科 , 図 47) は耳介が非常に大きく、尾が突出している。日本で目撃、採集されているが、安定した生息は疑わしい。

 

 

 

貧歯目 :

 代表はアリクイの仲間である。中でもオオ アリクイ Myrmecophaga trydactyla は異様に長い頭骨 ( 図 17参照 ) をもち、歯はまったくなく、長いねばねばした舌でアリやシロアリを食べる。舌は長さが 60cmもあり、 1分間に 100回以上も出し入れができる。アリの巣を掘るために前脚とその爪がよく発達している。中南米に分布するナマケモノもこのグループに属す。ホフマンナマケモノ Choloepus hoffmanni( 図 48) はフタユビナマケモノ科に属し、ほかのナマケモノ同様丸い頭をもち、長く彎曲した爪をもつ。非常に大きく彎曲した胃をもち、食物が全部通過するには 1カ月もかかる。 ミユピナマケモノ科のミユビナマケモノ Bradyupus sp. ( 図 49) は前足の爪が 3本あり、上顎に 5本、下顎に 4本の大臼歯がまばらに生える。分布や生息地はフタユビナマケモノ類と共通である。アルマジロ類 ( 図 50) は中南米にすみ 20種がいる。体表は鎧のような硬い皮膚に被われている。形態学的には腰椎に特別な関節があり、腰を力学的に強化している点に特徴がある。また歯の数が多いことも特徴的である。前肢はがっちりしており、足先には長い爪があって穴を掘るのに適している。骨格標本からはわからないが、ほかの哺乳類では 1本しかない下大静脈が 2本あること、子宮が単孔目のように深くくびれていることなども特徴的である。おもにアリやシロアリを食べ、そのために長い舌をもつ が、必要に応じて植物も食べる雑食性である。

 

有鱗目 :

 センザンコウ科が唯一の科であり、南アジアからアフリカに 7種がいる。センザンコウ (Manis sp., 図 51) はその重なる鱗が印象的でほかのどの哺乳類とも きわだった違いをもつ。危険を感じるとボールのように丸くなり、たいていの動物には歯が立たない。食性はアリやシロアリ食に特化し、細長い吻部や長い粘性の舌をもつ。頭骨は単純な円筒形をし、顎を動かすため の筋肉はない。また、四肢はがっしりしており、爪があって地面を掘るのに適している。これらの点はアリクイ類と似ているが、系統的にはへだたっており、相似の例である (Springer et al .,2004) 。

 

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