第2部 展示解説 動物界
哺乳類の頭部 頭部は他の脊椎動物同様、面的な骨によって構成される球状の頭蓋骨と下顎骨とからなる。頭蓋骨のうち 頭頂骨、側頭骨、前頭骨、上顎骨、鼻骨、後頭骨など は球状部を形成し、そこから側方に強う骨弓が突出して いる。多くの晴乳類は似たプロポーションをとる。頭 骨のプロポーションは食性と密接に関係する。イヌ科 を基本型 ( 図 13) とすると、食肉目の多くは肉を切り裂 くための鋭い歯をもち、イヌ科型のプロポーションのも のも多いが、ネコ科では引き裂いた肉を飲み込むため 大臼歯が未発達で、このため頭骨では岐むための筋肉 とそれを支えるための頬骨弓が発達しているため、左右 に広い傾向がある。ヒグマ ( クマ科 ) は雑食性であるが やはり岐む力が強く、頬骨弓がよく発達する ( 図 14) 。 ササ食いに特化したジャイアントパンダ ( アライグマ科 ) はさらに左右に広い頭骨をもつ。 齧歯目やウサギ目では全体のプロポーションはイヌ 科型と似ているが、齧ることに特化した門歯が非常によく発達し、食物をすりつぶすのに適した大臼歯とのあいだに歯のない部分 ( 歯隙 ) がある ( 図 15)。 葉食性の有蹄類では葉をすりつぶすために大臼歯がよく発達 しているので、その長さ ( 歯列幅 ) が長く、また歯隙も長いので、頭部が前後に非常に長い ( 図 16) 。これは食性の似ているカンガルー類にも共通である ( 図 27B 参照 ) 。きわめて特異な頭骨として、極端に前後に長 いオオアリクイがある ( 図 17) 。オオアリクイはアリやシロアリを食べることに特化しており、歯はまったくなく、粘質の長い舌をもつため頭骨は円筒状である。
大型獣では頭部の絶対重が大きいため、これを支えるために首が短く、太くなる。イヌ科型はおおむね長球あるいはドングリ型といえるが、これら大型獣では円錐型となる。サイ、パク、イノシシなどはこの典型例 といえる ( 図 115,116,117 参照 ) 。 霊長目では脳が大きいことに関連して、頭頂骨が発達している霊長類は樹上生活するものが多く、地上歩行性の晴乳類に比べると直立あるいは斜上姿勢をと る。このため頚部が頭部を下方から支えることになる。 またおそらく果実食であるものが多いことに関連して、歯列は比較的狭く、このため吻部の前方への発達は乏 しい。このようなことから、霊長類の頭蓋骨のプロポーションは上下方向に偏ったものが多い ( 図 18) 。上下 に偏った頭骨としてはゾウの頭骨もこれに該当する ( 図 142A 参照 ) 。ゾウの頭部は絶対重が大きく、さらに重い歯、長い鼻がある。この重い頭を支えるため、頭部は前後に短く、同時に頚部も短い。 水中生活は哺乳類の頭骨形態に大きな影響を与えた。最もいちじるしい例はクジラ目であり、流線形に なるために吻部が異様に長くなった ( 図 19) 。ただ同じ水中生活をする鰭脚類ではそのような特種化はなく、たとえばアザラシの頭骨は地上性食肉目のそれと似ている ( 図 112 参照 ) 。水中では水の抵抗を小さくするために首を胴体と一体化する必要がある。このためアシカ科で典型的にみるように、細い頚部はなく、頭骨の基部は円筒状である ( 図 111 参照 ) 。このように水中生活は多くの哺乳類の頭骨形態に大きな影響を与えたが、水中生活者でもビーバー、カワウソ、ラッコ、カピバラなどでは陸上の近縁種ととくに違いはない。
晴乳類の頭骨は哺乳類の形態の多様性を象徴的に示しており、それには食性が重要な要因となっていることがわかる。ただしここでは角や牙などの社会器官などについては言及しなかったが、これらが哺乳類の頭骨の多様性にさらなる多様性をもたらしていること は論をまたない。
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