第1部 第1章

自然の体系

 

ポストリンネの自然史

 博物館を中心に自然を体系化する研究は進んだ。とくに植民地活動がさかんだった18・19世紀はぼく大な量の標本が植民地からもたらされ、自然史研究を大きく刺激した。

 それまで神が創造し永久不変と考えられてきた生物の「種」自身が、こうした研究などを背景に、 自ら別の種に変わる、すなわち進化すると考えられるようになった。それを代表するのがダーウィン によって提唱された「進化論」である。初めはキリスト教国では神を冒涜するとさえいわれたダーウィンの進化論は、やがて大半の生物学者に支持されるようになった。

 進化論は、もとをたどればあらゆる生物がたったひとつの祖先の子孫であることを示唆している。 つまり、自然の重要な構成物である生物は長い時間をかけて今日にみる多様な様相をもつようになったのである。そのことを自然の体系に反映させようとするなら、従来の体系にはない時間とともに変わる、系統進化という考え方を導入しなくてはならない。静的であった自然の体系に時間という動的な視点が加わったのである。類似の程度の評価に基礎をおいた自然分類の考えによる体系化から、共通の祖先からの進化の道筋を示す系統分類による体系化へと転換したのである。

 鉱物では当初は各地の形状の異なる鉱物あるいはそれらが造る岩石の記載が体系化の中心となってい たが、元素とそれがつくる構造によって分類することや実験により個々の岩石のできる条件の特定が 試みられるようになった。こうした研究の進展により岩石・鉱物では生物とは異なる体系化が行われ ることになった。鉱物学や岩石学の実験的研究でも集積されたぼう大な標本が大活躍している。

 自然を体系化する研究は、やがて生物と鉱物では異なる道を歩むようになった。生物についても、 また鉱物についても多様性の概要は明らかになったといえる。生物は温帯圏を中心に多様性の解明も大きく進んだ。また、系統進化についても大筋は明らかになってきたといえる。こうした研究が進む 一方で、地中に棲むダニ、熱帯の多雨林やサバンナの樹上で暮らす昆虫のグループなど、熱帯圏や海 洋、土壌中、あるいは極限環境には未だ体系的な解明さえほとんどなされていない生物のグループも数多く残されているのである。その存在が科学化されようとしている最中に絶滅してしまった種さえある状況である。

 

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