TRON 電脳住宅


TRON 電脳住宅は「一部の専門家ではなく、普通の人びとが普段のあらゆる生活の中で コンピュータを利用していく未来社会を想定し、誰もが使いこなせる機器やシステム、 新しい技術によって実現すべき未来生活のコンセプト、さらにこれを支える社会の仕組 みやルールといった幅広いテーマを正面から取り組み、トータルなデザインを行わなけ ればならない」という TRON プロジェクト全体にわたる思想を住宅という場で表現し たものである。

そしてこれに賛同する民間企業 18 社が集まり、真のホームオートメーション実現のた めの実験住宅の構築を行うべく TRON 電脳住宅研究会が発足し、 1989 年 12 月、東 京・西麻布に「 TRON 電脳住宅・パイロットハウス」が竣工した。

1990 年 4 月にはパイロットハウスの一部公開を開始し、見学者はのべ 10,000 人に のぼり非常に関心を集めた。また、オランダ皇太子やスウェーデンの建設大臣をはじめ 内外の多くの著名人が訪れている。また、 BBC 、 CNN をはじめとする多くの放送局、 新聞社、雑誌社が取材に訪れており、広く紹介された。

その後、公開を中断し、実際に人が居住することによる操作性、快適性の検証の実験を 行い、“真のホームオートメーション”住宅の快適性や未来の生活スタイル・新しい設 計手法の可能性などを追及した。本研究会は 5 年間の研究期間を終え、 1993 年 1 月 に終了した。

インテリジェントハウス、ホームオートメーションという言葉は以前からいわれてきた が、単にバラバラな機器を寄せ集めたようなものがほとんどで、トータルな提案を行っ ているものではなかった。また、最近の家庭用機器はますます高機能なものとなってい るが、逆に豊富な機能を使うための操作法は複雑化している。このため高機能住宅とい うといろいろな機械が並んだものと思いがちだが、 TRON 電脳住宅では操作法の統一、 協調動作による指示の簡略化などにより、高機能でありながらシンプルな印象を与える ものとなっている。


基本コンセプト

「 TRON プロジェクト」の思想を住宅に具体化

現実の制約にとらわれることなく、来るべき社会の理想を求め、ひるがえって今何を始 めるべきかを考える「 TRON プロジェクト」の思想。「 TRON 電脳住宅」も、近未来 の生活全体を夢見ることからスタートした。そして、実際に生活体験のできる「パイロッ トハウス」を実現させた。

「 TRON 電脳住宅」は、「インテリジェントハウス」の真の可能性を提案

住宅とは、さまざまな人間が、安全に、便利に、快適に暮らすところ。生活が多様化し、 社会の情報化が進む現在、住宅に求められる条件も複雑になる。そのため、さまざまな 機能を統合してきめ細かく調整し、しかも誰もが使いこなせるシステムが必要になる。 高機能でありながら、柔軟で洗練された「真のインテリジェントハウス」を目指す。

「 TRON 電脳住宅」は、業界の壁を超えたトータルデザインを追求

住宅はあらゆる生活の舞台、豊かな包容力と調和が求められる。建物と設備の総合計画、 空間とインテリアのコーディネイション、高い機能性と日本人の感性になじむ住まい心 地の調和。住宅関連の異業種企業がひとつの実験住宅を建設する、こうした未体験の協 同作業が理想のトータルデザインを可能にしている。

「 TRON 電脳住宅」は、新しい空間設計の手法を展開

半屋外空間の設置によって、風・光・植物と暮らせる住まい。自動倉庫の導入によって、 収納スペースの既成概念にとらわれない住まい。トータルデザインによって、自然素材 と機器やコンピュータが調和した住まい。知的なシステムによって、健康で安全な暮ら しを守る住まい。新しい機能を求めることは、新しい暮らしをイメージすることから始 まる。そして、機能が質的に変わることによって、新しい空間設計が可能になる。


実験

TRON 電脳住宅にある各種機器はおのおの自律的に動作するとともに収集した情報、動 作状態など各種情報をネットワークを通して他の機器に対し送信している。また、各機 器は必要に応じて流れてくる情報により動作状態を制御している。このときに流す情報 の形式は TAD ( TRON Application Databus )と呼ばれる形式となっている。この ため、これらの情報をどのように取り込み利用するかにより協調動作のしかたが定義さ れる。そしてこの協調動作のしかたにより居住者の持つ印象が異なることとなる。

居住者が TRON 電脳住宅にどのような印象を持ち、どのような協調動作を行わせるべ きか、また個人差の出やすい点、出にくい点を洗い出すため会員の有志により体験入居 実験を行った。

全体的な印象、ならびにデザインに対する評価はおおむね高いものであった。特に内装 に対する印象、リビング、半屋外空間、浴室に対する評価は非常に高いものであった。 また、多くの体験入居者が再度の体験入居を希望している。

さらに、宅内 LAN 、操作法に関する検討を行った。特に操作法に関してはその成果が TRON 電子機器 HMI 研究会の「 TRON 電脳生活 HMI 仕様書」に反映された。