トロン電脳ビル
株式会社間組は 1987 年から、坂村健プロジェクトリーダーの指導のもとにトロン電
脳ビルの開発に乗り出し、 1989 年には同社を中心とする企業 11 社による「トロン
電脳ビル研究会」を結成、具体的な建設プロジェクト実現に向けて研究開発を進めてい
る。
トロン電脳ビルは、「やる気の出るオフィス」をメインコンセプトに「人間中心」「働
く人中心」の快適なオフィス、生き生きしたオフィスを提供するビルである。ビル内に
はコミュニケーションを必要とする仕事を行うオープンなオフィス、集中力を発揮する
ための個室、発送の転換に役立つ屋上庭園、半屋外テラス、リフレッシュゾーンなど多
彩な空間が有機的に配置されている。
物品の管理をサポートする物流分散システムによって、必要な書類などをロボットが搬
送し、収納や保管などのサービスを行ってくれる。また飲物も各自の居場所まで運んで
くれる。
スーパー ID カードにより、誰がどこにいるかをビルが認識して、電話や情報はどこに
いてもたちどころに伝達される。
さらに働く人の動きを分析し、仕事に最適なレイアウトを提示するアナライザ/コンパ
イラシステム、音響・照明を高度に制御するシステム、高機能会議室、セキュリティ・
システムといった機能が盛り込まれている。
このトロン電脳ビルは 21 世紀のオフィス空間のモデルとして位置付けられ、単体のビ
ルから将来は TRON ネットワークによるトロン電脳都市などの構築を目指している。
電脳ビルのコンセプトと機能
快適なオフィス環境
近年の OA 機器の発達で情報処理能力の飛躍的な向上、オフィスの様相も一変、清潔で
明るいオフィス環境に向かいつつある。しかし、こうした急激な変化は、働く人びとに
さまざまなストレスや問題をもたらしてきた。その背景には、オフィスに対する考え方
に管理サイドからの生産性向上と、効率化中心の傾向が強かったことがある。トロン電
脳ビルでは、「オフィスという舞台では働く人が主役」という考え方を挙げ、より積極
的にオフィス環境の創造にアタックし「働く面」と「生活をする面」の 2 面から追求
した。その結果、さまざまな空間、さまざまな機能を提供して、より人間的なオフィス
に展開しようとする試みを行っている。
多様性のある空間
クリエイティブな仕事を支援するためには多様な空間が求められる。電脳ビルにおける
空間デザインは、仕事に応じた最適な空間、気分転換をしたいときはそれにふさわしい
空間を利用できるように考えられている。つまり、集中したい仕事は集中できる空間で、
コミュニケーションの必要な仕事はオープンなオフィスでというわけである。
また、発想の転換に適する「ガーデンオフィス」とも言うべきものがある。そこではテ
ラスや屋上庭園などビルの中にいながら屋外にいるような雰囲気の中で仕事をすること
ができるものである。
1 人 1 台のワークステーション
トロン電脳ビルは、働く人の知的な作業をサポートするための快適空間を作り出す数々
の機能が用意されている。 1 人に 1 台ずつの BTRON コンピュータもそのひとつであ
る。 BTRON コンピュータは、現在のオフィスのパーソナルコンピュータなどとはその
位置付けや機能が大きく異なり、 TV 電話、照明・空調コントローラ、業務システム端
末、ワープロ、 DTP 、電子メイル、インフォメーションボードなどを 1 台でこなす
“ワークステーション”である。
これを用いて他の人とマルチメディア情報による自由なコミュニケーションが行え、ま
た、自分自身との会話の中から知的な作業を進めることができる。加えてきめ細やかな
環境制御を行うこともできるわけである。
スーパー ID システム
前述したように、トロン電脳ビルの特徴は「ビルが働く人を支援する」ことにより、働
く人に心地よく仕事をしてもらうということにある。そのために大きな役割を果たすの
が「スーパー ID カード」である。通常の ID カードはビルの出入りチェックとか社員
食堂の清算などに使われているが、このシステムは“スーパー”という文字がついてい
るだけあって、ビル内であればどこにいても連絡できる機能を持っている。加えて、ど
の場所にいてもその人の好みの環境を作り出す機能もある。
また、スーパー ID システムは働く人ひとりひとりの動線をビルが把握し、そのデータ
を記憶しており、後述のオフィスアナライザの情報源ともなり得るのである。
物流分散システム
現在、一般的なオフィスに足を運ぶと多くの場合、そこには書類の“山”が存在する。
その書類は仕事に絶対必要かといえば、だいたい 8 〜 9 割までは 1 回の利用でその役
目を終えると言われる。つまり貴重なスペースを不必要な書類でふさいでしまっている
のである。
そこでトロン電脳ビルでは、物流分散という考え方を導入している。不必要な書類は搬
送ロボットフロアの倉庫に 1 カ月保管。それでも使用されないと自動的に地下の自動
倉庫に搬送。そこでもしばらく利用されていない書類等は一定期間を経て郊外の倉庫に
移動させてしまう。したがってオフィス内は常に整理整頓された空間になるというわけ
である。
また、スーパー ID カードとの連携で、働く人はビル内のどの場所にいてもロボットに
必要な物(書類でもお茶でも)を届けてもらうことができる。
さらにこの一環として、ビル内を移動する給茶ロボットや書類搬送ロボットなどの研究
開発も進められている。
アナライザ/コンパイラ
オフィスにおける快適性には仕事の行いやすさということも含まれていると考えるべき
である。しかし、そのわりには現在のオフィスにおいては一度、決まったレイアウトを
変更することは容易ではなく、また、働く人自身も半分あきらめているケースが少なく
ない。
トロン電脳ビルでは、プロジェクトや仕事の変更に応じてオフィスのレイアウト変更が
容易に行えるようになっている。その元になっているスーパー ID カードによってオフィ
スでの人びとの動き、コミュニケーションを自動集積し、測定分析する“アナライザ”
である。また、分析データに組織、仕事の情報を入力して最適なオフィスレイアウトを
提案するのが“オフィスコンパイラ”である。
以上、トロン電脳ビルのコンセプトと機能を紹介した。現在、ここで紹介した以外にも
数多くの研究開発が進められている。