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岩石


13 砂漠のバラ


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オーストラリア、ビクトリア州
清水正明
総合研究資料館、岩石z床部門

地質現象の中では、地震や地すべりなど一過性の天変地異には大きな注目を集めるが、経常的に進む現象には、身辺なものであってもあまり気づかれていないものが多い。風化・侵食・運搬・沈積の堆積サイクルは地球の表面で起こっているものであるから、最も我々の目に触れやすいにもかかわらず、その機構は十分には理解されていない。日本列島は湿潤気候地域に属するために、この堆積サイクルは主として地表水を営力としていて、一般に物の動きは高所から低所へ、地表から地下へと向っている。また、蒸発作用などによる鉱物生成などは、洞窟内などで小規模にみられるだけである。これに対し、乾燥地域では風を営力とする堆積サイクルや強い蒸発作用に支配された堆積サイクルなど湿潤気候下とは様相の異なる現象がみられる。

乾燥地域、特に砂漠では表層水は乾期には干上り、降雨の後には湖となるプラヤ湖など限られた場所にしか存在しない。砂漠の年降水量はもちろん小さいが、数回はまとまった降雨がある。この大部分は地表から蒸発していくが、一部分は深部に浸透し地下水となる。この地下水が流動してプラヤ湖やオアシスなどでは地表に現れる。また、一部の地下水は地表に向って上昇し、蒸発していく。

砂漠のバラ(roses du d'esert)は上昇地下水が蒸発する際に溶存成分が結晶化したものである。この地下水が上昇する機構は一般には毛細管現象によると考えられている。また、地下水はこの循環の過程で、砂粒に付着している種々の塩類を溶かし込んで高濃度の溶液となっていく。地下水が蒸発の際、塩類が結晶として沈澱したのが砂漠のバラで、ふつうは地表下数センチ〜数メートルのところに多く生成するといわれている。この機構で生成する鉱物は方解石(CaCO3)や石膏(CaSO4・2H2O)が最も多いが、その他の鉱物もみられる。

本標本はオーストラリア、ビクトリア州産のもので本館に寄贈されたものである。結晶はすべて石膏であり、最大なものは長さ5センチ、幅1センチ、厚さ4ミリある。

(歌田 実)


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