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岩石


12 スコロド石の石筍


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宮崎県岩戸村奥見立鉱山
湊秀雄
総合研究資料館、岩石z床部門

石灰石地方にはいろいろな特徴的地形や景観がみられる。鐘乳洞は代表的なもので、わが国のみならず世界各地で重要な観光資源となっている。鐘乳洞中での主役は「鐘乳石」であるが、正確にいえば、天井からつらら状に下がっているのが鐘乳石であり、床にきのこ状に生成しているものが石筍、両者の連結したものは石灰柱と呼ばれる。これらの「鐘乳石」の一般的な成因は、石灰岩中に浸透し、その主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)を溶解した地下水が上盤の割れ目などを伝わってきて滴下する際に生成するものである。地下水中の炭酸カルシウム濃度は季節変化する水量によって異なるが、「鐘乳石」を造る時には炭酸カルシウムに関して飽和しており、蒸発作用により過飽和になると考えられる。一方、地下水量が増して炭酸カルシウム濃度が減小して不飽和になると「鐘乳石」は再び溶解することになる。「鐘乳石」はこの微妙な変化をよく記録しており、展示されている石筍には、沈澱・溶解の大きな変化が三回繰り返されたことが示されている。

展示標本の「スコロド石の石筍」は、生成された場所や形態は普通の石筍と差異がなく、生成機構も上述の場合と似たものと考えられる。しかし、構成物が炭酸カルシウムではなく、Fe3[AsO4]・2H2Oの組成をもつスコロド石であり、世界でも大へん珍しいものである。本標本は、本学名誉教授、湊秀雄氏により、宮崎県、旧奥見立鉱山(嘉納鉱山)より採集された。構成物はかつて含銅異極鉱とされていたが、同氏の研究の結果、スコロド石であることが明らかにされたものである。

採集地の奥見立鉱山は大分県・宮崎県境付近の尾平鉱床区の鉱床群に属している(挿図1)。この鉱床群は金属の種類に富み、錫、タングステン、モリブデンのほか、銀、銅、鉛、亜鉛、マンガン、鉄に加え、アンチモン、砒素、ビスマスを産する特徴がある。石筍を構成するスコロド石は鉱床中に産する砒素鉱物である硫砒鉄鉱(FeAs2)が分解し、酸化して砒酸鉄溶液が形成され、これが地下を伝わり上盤の割れ目から滴下して石筍を造ったものであろう。

(歌田 実)


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